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「クイーンメーカー」 - 陰と陽のインテンシティで闘う女ふたりの選挙エンタメドラマ

★★★★+

企業戦略の天才がとある事件をきっかけに政治の世界へ転身し、人権派弁護士をソウル市長選で勝たせるべく奮闘する…あらすじに惹かれて観始めた一本でした。最近ちょうど思い立って「夫婦の世界」を観たりしていたのもあって、主演キム・ヒエ独特の「強い女」をそのまま感じられるドラマだなという印象。

ウンソングループの戦略企画室長であるファン・ドヒ(キム・ヒエ)は、グループに生じる問題をあらゆる手段で解決する凄腕のフィクサーです。ソン・ヨンシム会長(ソ・イスク)の次女である常務のウン・チェリョン(キム・セビョク)が運転手や社員に暴行を加えた事件にも迅速的確に対応し沈静化をはかります。

そんな中、ドヒはある青年から人権派弁護士として破天荒な行動を繰り広げるオ・ギョンソク(ムン・ソリ)の映像を受け取ります。オ弁護士はウンソンデパートの非正規女性労働者500名の不当解雇に抗議するべくデパートの屋上に立てこもりストライキを行っていました。ドヒはギョンソクと会話をしに屋上へ行きますが、平行線のまま。力ずくでの解決を指示します。

一方でチェリョンの夫でグリーンピープル財団の理事長を務めるペク・ジェミン(リュ・スヨン)に呼び出されるドヒ。彼は出張に同行していた女性秘書のハン・イスルに好意を寄せられた挙げ句「理事から性的暴行をうけたと告発する」と脅迫されていると言います。暴行した事実は絶対にないというジェミンの言葉を受け、ドヒはイスルを呼ぶと退職を迫ります。しかし本当に暴行されたと主張するイスル。そしてその会話のあと、イスルはビルの屋上から身を投げ…イスルから最期に送られてきていたメールを見たドヒはハッとしてギョンソクの排除を中止させようと車を走らせるのです。そこからまったく違う方向へと転がり始めるドヒの運命…。

物語のほとんどを選挙戦が占める政治モノではありますが、社会派的な重苦しさはなくドラマとしては至ってエンタメ作品です。人心を巧みに操りウンソングループの闇を隠し去ってきたドヒはいつしか人間らしさを失って家族も離れていってしまいました。しかしそんなドヒですら許せない出来事が起こり、彼女はウンソンを退けるべく政界に打って出ることを決意。彼女のパートナーとなるのが一時は激しく対立したギョンソクですが、ギョンソクもまたウンソンとジェミンの真実を知り烈しい正義心を燃やすのです。はからずも「世界を良い方へ導く」という目標で合致したふたりの二人三脚の選挙戦は知恵はあれど(莫大な)金はない。立ちはだかる敵をドヒの計略とギョンソクの度胸でひとりずつ退けていく姿を純粋に楽しむ、そんなドラマだと思います。

人物の背景の描き方はそこまで深くないので、もともとドヒがなぜそこまで闇落ちしていたのかとか、ウンソングループへの反旗を翻す流れなど、多少腑に落ちなさはありました。闘いが始まってからも予想できたであろう反撃をまともに喰らってしまったり、展開としては必要かもしれませんがドヒの脇の甘さが気になってしまうシーンもちらほら。先日観終えたばかりの「財閥家の末息子」での主人公の何手も先を読んでいる感じと対比してしまうともう少しドヒの切れ味が欲しい気もしました。が、全体にはのさばる悪を倒しながら人情を交わしていくドヒたちの姿にこそこのドラマの醍醐味があるのかもしれません。ギョンソクの家族の人柄や、要所を押さえているドヒの元夫のイケオジ感(好みは分かれそう)も良い味わいに。

あとはなにより、女の強さの描き方!女フィクサーという設定は言わずもがな、ドヒがジェミンのバックにつく政界の伝説カール・ユン(イ・ギョンヨン)を上回っていく構図や、ギョンソクがクズ男であるジェミンはもちろん、権力をこじらせた感じの女性対立候補ソ・ミンジョン(チン・ギョン)をエネルギーで打ち破るこの感じは、近年の韓国ドラマならではという気も。なにせ敵のボスもウンソンの女会長。性別に言及する場面はまったくないですが、このドラマの世界を動かしているのが逞しく賢い女性たちであるのは間違いありません。踏みつけられても自分を損なわず着実に正義を実行していく。キム・ヒエとムン・ソリのふたりがそんな女性たちを強く美しく体現していました。

ドヒとギョンソクのキャラクターの違いによって生み出されるテンポが全体にドラマを見やすく仕上げていて、一気観できる全11話。物語はきちんと終わっていますが、シーズン2への可能性も残しつつ…なあたり、先の展開も気になります。


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喜怒哀楽ドラマ沼暮らし

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