「財閥家の末息子」 - 糾える縄の如き祖父と孫の因縁を追う
★★★★★
「ヴィンチェンツォ」で、一筋縄では行かない計略的なキャラクターががっつりハマっていたソン・ジュンギ。今度は下僕から財閥家の息子に転生して2回目の人生で自分を殺害した犯人への復讐を図る役ということで、それは観てみたい!と思わされる一本でした。人生をやり直すという点ではイ・ジュンギの「アゲイン・マイ・ライフ」もありましたし、日本でも最近タイムリープものがまたブームな様相ですが、本作は過去へ行ったからこそできる要素をうまく活かしつつ必要以上にSF感が強いわけではなく、財閥家の複雑な愛憎の中で主人公がのし上がっていく姿を痛快に描く作品です。
国内最大級の財閥「スニャングループ」の傘下の企業で、未来資産管理チームの長として働くユン・ヒョヌ(ソン・ジュンギ)。貧しい出自を揶揄されながらも懸命に働き、財閥のオーナー一家のリスク管理を担当するヒョヌは、主人のためであればどんな仕事でも請け負う従順な社員です。
そんなヒョヌはある日、海外に流れた資金を取り戻すよう指示を受けトルコへ出張に出かけます。なんとか6億ドルの資金を奪還することに成功しますが、部下の思わぬ裏切りに遭い崖から突き落とされてしまいます。1話でいきなり死を迎える主人公。
そして次に目覚めると、ヒョヌは全く別の人物になっていました。スニャングループの創始者チン・ヤンチョル(イ・ソンミン)の四男チン・ユンギの末息子であるチン・ドジュンとして生まれ変わっていたヒョヌ。そして時代は1987年。ヒョヌとしての記憶も持ちながら、幼いドジュンとして2回目の人生を歩み始めることになります。そして自分を死に追い込んだであろうスニャングループへの復讐を誓うことに…。
40代で人生の苦難を散々経験してきたヒョヌが入っているドジュンは、見た目は子供ですがずば抜けた才気を見せ、欲を全面に出す財閥2世たちを出し抜いていきます。当然ですが先々起こる出来事(大統領選の結果からヒットする映画、9.11テロ、Amazonの台頭まで)を知っているので、その知識を使って莫大な利益を生み出すように。視聴者はもちろんそれらを分かっているわけで、ドジュンとともに他の登場人物たちを唖然とさせるような気持ちになり、それが非常に面白く感じました。
様々な妨害はもちろんあるわけですが、一流大学に進学し、どんどんプレゼンスを増していくドジュン。財閥の後継者は長男の息子ソンジュン(キム・ナムヒ)が既定路線となっているのですが、それすらじわじわと脅かすまでになります。ドジュンの記憶力と頭の回転の速さが際立ち、彼がどのようにしてスニャンを手に入れるのか、息継ぎを忘れて見入ってしまいました。
そしてこのドラマ最大の魅力は恐らく、スニャンの絶対的会長チン・ヤンチョルとドジュンの間で縄を縒り合わせていくように紡がれる対立と絆の物語でしょう。イ・ソンミン演じるヤンチョルの傑物感がまず凄い。「刑事ロク」と同一人物だということに人から言われるまで気づかないほどでした。精米所から始めて財閥まで成り上がった彼の醸す空気は豪快でありながら一分の隙もなく、とにかく鋭い眼差しで他人を見極めています。おっとりした風貌に卓越した能力を秘め虎視眈々とスニャンを狙うドジュンとの対峙はとにかく見応えがありました。未来を予見するドジュンを警戒しつつも、次第に我が孫の利発さが面白くなり、自分によく似ていると思い始めるヤンチョル。ドジュンはドジュンで、スニャンの家が敵だと思いつつもヤンチョルに対してはどこか畏敬の念をおぼえているようであり、孫の祖父に対する愛情もどこかに感じさせます。確実にふたりの心が通っていく過程が実に見事です。
結末については、もともと人気の高い原作小説とだいぶ異なる終わり方だったために賛否分かれたようですが、個人的には綺麗な着地だと思いました。ファンタジーを引っ張り過ぎず、リアルで前を向けるエンディングではないでしょうか。イ・ソンミンの圧倒的存在感がとにかく印象強いですが、ソン・ジュンギの常に何手も先を考えていそうな表情もよく似合っていて、役者の良さが物語を骨太に見せてくれます。ここ最近あまりなかった一気観できる作品力がある一本でした。
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