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「39歳」 - 死を迎える道筋が何よりも生を残す、優しい記録

★★★★+

BGMが少なく、映画的な感性をそそられる作品。「39歳の女3人」というコンセプトは日本でもありそうと思いつつ、日本のドラマだと主人公が39歳の独身女性だと即ちそのこと自体が物語のテーマになりがちな気がしますが、韓国ドラマでは設定の一部でしかないことが多い気がします。ここでも39歳は人生の節目として描かれますが、結婚がどうこうではなく人生を生きることに焦点があたっていました。というよりもはや結婚どころではない人生の山場を描いていく展開。主役の親友3人組を演じる女優陣が豪華なこともあり、どことなく「女が生きること」について考えさせられるような作品でした。

高校生の頃、いくつかの偶然が重なり知り合ったチャ・ミジョ(ソン・イェジン)、チョン・チャニョン(チョン・ミド)、チャン・ジュヒ(キム・ジヒョン)。タイプは違えど親友になった3人は、あらゆる喜怒哀楽をともにして39歳という年齢を迎えています。

ミジョは皮膚科医としてバリバリ働いていますが、実の親に捨てられ施設で育った過去があります。今の育ての家族と幸せに暮らしていても実母のことは気にかかる日々ですが、心の疲労を感じてアメリカに留学を考えていたところ、ふと出会ったキム・ソヌ(ヨン・ウジン)が気になる存在に。チャニョンは俳優に演技指導するコーチをしながら、既婚者であるジンソク(イ・ムセン)のことをずっと想い続けており、ジンソクもまたチャニョンを愛してはいるものの家族は捨てられないという状態。ジュヒは化粧品のセールスマネージャーをやっていますが、特に恋人もおらず淡白な生活。でも近所にできた店のオーナーがイケメンで気になる…それぞれの状況を抱えてはいながら、集まれば楽しく飲み明かすような3人でしたが、ある日、健康診断を受けたチャニョンが末期癌に冒されていることが分かります。思いがけずやって来た岐路に、3人は限られた時間をどう過ごすか必死で考えなければならなくなるのです。

序盤から「死」が入ってくるのでどうしてものしかかる何かから逃げられない空気はありますが、でかい問題が立て続けに襲ってきても3人は基本的にはそれまでと変わらない日常を生きていき、当たり前の日々を愛しみながら物語は進んでいきます。障害はありつつミジョの恋愛が育っていくのがある意味で救いとなるサブライン。

ただキャラクターがちょっと我が強いというか、それぞれにこじらせた感があり、加えてキャストが良いせいか演技のリアルさがむしろ災いして観ていてどうしてもイラッとしてしまうのが難点(笑)。言いたいことを飲み込むようなシーンが多くて、でも実際に女同士の友情も大人になるとそういう部分あるかもと思ったり。

ジュヒがミジョに「チャニョンがいなくなったあとふたりでうまくやっていける自信がない」みたいに言う場面があるのですが、その生生しさに頷いてしまいました。3人は親友でありながら人生のスタンスは濃中淡それぞれで、3人だからこそ成立している部分があるのだと思います。何かと事情を抱えるチャニョンとミジョはふたりで話すことが多く、素朴に生きてていつも知らせは最後に知らさらるジュヒはたびたび不満を見せますが、それもまた実際にありそうなバランスだなと感じました。3人で仲が良くても人間関係はいつだって1対1です。3人は組み合わせが変われば違う距離感を見せ、それぞれの親子関係も恋愛模様もまったく異なります。それでも相手を想う温かさは共通で、チャニョンを幸せにしたい気持ちはみんなをひとつにしていきます。

終盤はチャニョンのために周囲が精一杯過ごし、チャニョン自身は身の回りを整理していく様子が描かれるのですが、悲しくてもそうやって命を刻んでいく道のりはその人が亡くなったあとに確かに残るものです。そして遺された人が懐かしんだり、時々哀しくなることはその人の生の記録。きっと生きるというのはそういうことで、死もまたそういうことなのでしょう。表裏一体の人生をある意味で淡々と描く物語はとても静かに進んで静かなまま終わるし、どんな形でも死は悲しいものですが、必ず訪れるものだから、死をどう迎えるか、どう見送るかはその人の自由だと思わせてくれる3人。

奇跡が起こる展開を求める必要はなく粛々と人生を受け入れるように観ていられるドラマでした。無理をせず、あるがままな最終回がとても良かった。ミジョとジュヒがチャニョンのために用意する特別な「葬式」がとても優しくて、決して死を嘆かなくていいと感じられたことに救われる気持ちもありました。なんとなく、人の幸せを願いたくなる一本です。たまたまかもしれませんが最終回の日にソン・イェジンのリアルなウェディング写真が公開されたのも素敵でした。


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喜怒哀楽ドラマ沼暮らし

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