「なぜ、オスジェなのか」 - 満身創痍で鎧をまとった女と彼女を愛する男の物語
★★★★★
予備知識もなく何気なく観始めたドラマだったのですが、主演が「君は私の春」のソ・ヒョンジン。さらに共演が最近気になっていたファン・イニョプだと気がついて、結構夢中になって観てしまいました。ふたりの醸し出すミステリアスな世界観と、ベテラン俳優揃いの周辺人物たちとの攻防が癖になります。人にものすごくオススメしたいというより、個人的に妙に好きな作品といった感想です。
国内有数の法律事務所TKローファームで高卒でありながら最年少パートナーになりスター弁護士として活躍していたスジェ(ソ・ヒョンジン)。ビッチ、クレイジー女、縁起の悪い女、非常識な女…など言われたい放題でもものともせず突き進んできた彼女は、ファームの代表就任を目前に控えていたある日、とある事件に巻き込まれて地位を失うことになります。一旦ロースクールの教授職に就くよう言われますが、実質上の左遷。とはいえとりあえず大人しくロースクールへやってきた彼女は、1年生のコン・チャン(ファン・イニョプ)という学生に出会います。スジェのことが好きだと臆面もなく言うチャン。スジェは相手にしませんが、どうやらチャンの気持ちは遊びやからかいではないようで…。
実は苛烈な過去を持つチャンにとって、スジェはたった一人自分を信じてくれた特別な存在だったのです。スジェはそのことに気づいていませんが、チャンは深い愛情で彼女を支えていくことに。そしてスジェは自分を陥れた人物に心当たりがあるのか、ロースクールの学生たちと共に事件の真相解明に乗り出します。ところが進めば進むほど事件は複雑な構造を見せてゆきます。TKローファームのチェ会長(ホ・ジュノ)、その息子であるチェ・ジュワン(チ・スンヒョン)、ロースクール院長のペク・ジンギ(キム・チャンワン)、投資ファンド、SPパートナーズの代表ユン・セピル (チェ・ヨンジュン)、ハンスグループ会長ハン・ソンボム(イ・ギョンヨン)、大統領選候補の議員イ・インス(チョ・ヨンジン)…十人十色に権力と思惑を持つ面々が過去のひとつの事件に向かっていく独特の物語。
序盤はやり方には問題があるけれど才気あふれる弁護士のオ・スジェが権力社会で昇り詰めていくような展開なのかと思って観ていました。ところがチャンが登場することで早々に毛色の異なる波紋が広がります。辛い記憶の中で女神のように大切に想ってきたスジェと再会を果たし、真っ直ぐな気持ちを見せるチャン。甘くてほろ苦い、純粋で大人びたロマンスが広がります。
一方で、次第に明かされていくスジェとチャンそれぞれの過去は想像以上に重たいもので、さらには現在進行形でスジェに降りかかる幾多の試練がまたキツい。とりあえず言えるのはスジェに男を見る目はないんだなということですが…。人間関係というか愛憎の構造が思ったよりだいぶ複雑でした。
終盤はもう悪を成敗していくモードなので痛快さもありますが、スジェは成功してきたようでありながら身も心もボロボロで他人に操られるように生きてきた女性だということが分かります。ソ・ヒョンジンの儚さと強さが共存する美しさがそれをうまく体現しているように感じました。そして多少のことでは揺るがない強い想いで彼女に寄り添うチャンが、穏やかなときめきをもたらしてくれます。
悪役はどこまでも悪役。韓国ドラマを観ていると「想像の斜め上を行くクズだな!」ってなることが多々ありますが、今回もそんな感じでした。ただ、大物と小物と中間みたいな分類がわりとバランスよくされているので飽きません。誰が何を言おうとひるまないスジェはひたすらにかっこいい。
それと全体通して「親と子」みたいなキーワードが散りばめられています。各各歪んでしまった親子たちがたくさん登場するのですが、最終的に親子は切っても切れない絆があるということなのかもしれません。物語になんとも言えない渋み、深みを与える部分です。
ミステリーというよりは悪を倒していくことに重きが置かれた作品であり、ロマンスとしても個人的には上出来。タイトルの「なぜ、オスジェなのか」(原題の直訳)も観終わるとなんとなく腑に落ちました。素直に面白かったです。
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