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「天気がよければ会いにゆきます」 - 信じていい温かさがあるということ

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のどかな田舎で疲弊した心を休め、幼いころに芽生えた恋心が大きく花開いてゆく。どこか普遍的な郷愁のある物語。日本の作品にもたびたび登場しそうな世界観は、誰もがどこかで求め続けている風景のような気もします。本屋を営みハンドドリップでコーヒーを入れてくれる純朴なイケメンという、ひとつの理想型みたいな男性をソ・ガンジュンが、美人で音楽の才能にも恵まれながら重い過去と孤独を背負って生きるヒロインをパク・ミニョンが演じていて、自然が溢れかえる舞台そのままの飾らない素朴な恋が育っていく様子は癒しそのもの。

ソウルの音楽塾でチェロを教えていたヘウォン(パク・ミニョン)は、生徒の反抗やモンスターペアレントとの対立に疲れ、仕事を辞めて叔母のいる田舎町にやってきます。そこはへウォンの通った高校もある場所で、叔母のミョンヨ(ムン・ジョンヒ)が祖母から譲り受けたペンションで暮らしていました。ペンションに転がり込むミニョンですが、ミョンヨはいい顔をしません。

ペンションの隣(と言っても少し歩く距離ですが)にある「グッドナイト書房」を営むウンソプ(ソ・ガンジュン)は、高校で同じクラスに転校してきたへウォンがずっと想い続けてきた初恋の相手で、そんなへウォンがとりあえず冬の間はこの町で過ごすと聞いて喜びを隠せません。感情表現が豊かなタイプではないのですが、何かとへウォンの世話を焼き、短い距離でも夜道は懐中電灯を持って見送り、山道には心許ないスニーカーを履いているのを見て新しい靴をプレゼントしたり。過去の出来事から家族や愛情に恵まれず大人になったへウォンは、そんなウンソプの温かさがしみて徐々に気になる存在になっていくのです。

ある日、へウォンの暮らすペンションで水道管が凍結してしまい、へウォンはウンソプの書房の世話になることに。ふたりの距離は近づいていきますが…。

へウォンの過去がなかなかヘヴィなことはわりと序盤で見えてくるものの、ウンソプの優しさに触れて平和にのんびり愛情が育っていくのだと想像して観ていました。それが中盤でそんな単純ではないウンソプの背景がさらに明かされてきて、想いが通じたとてサクッとは幸せになれないふたり。ですがウンソプの愛情はへウォンが感じるよりずっと、深くて意味のあるものなのです。複雑なような、むしろ少年のようでとてもシンプルな、独特の空気を纏うウンソプをソ・ガンジュンが淡々と表現していくのが印象的です。表情や口にする言葉は少ないのに、慈しむようにへウォンを愛し、家族を大事にする気持ちが伝わってきました。低音楽器のような声の響きが馴染むのかもしれません。ちょうど直前にソ・ガンジュンが出ている「恋はチーズ・イン・ザ・トラップ」(最愛ドラマ!)を観返していたのですが、犬っぽいのは変わらないのに挙動が真逆で面白いなと思いました。

へウォンはウンソプとはまったく違う角度の陰を持っていますが、ひねくれず正直に生きていて、時に傷の痛みを見せることがあっても自らを損なうことはありません。そんな彼女の物言いはいつも心地良いです。願わくば彼女に温かい居場所を、そう願ってやまないヒロイン。

他にもいろいろな人物が出てくるのですが、ときめき視点で言えばウンソプとまた別の視点で高校時代からへウォンに想いを寄せていたオ・ヨンウ(キム・ヨンデ)がかなりクセは強いもののカッコ良く、短い登場時間で強烈なインパクトを残します。ストレートなのか不器用なのか謎ですが、へウォンを見守る目の優しさがグッと来てしまって。ウンソプがいるのは分かっていても、ちょっと報われて欲しくなってしまうキャラクターでした。

「グッドナイト書房」での集まりや高校の合同同窓会、フリーマーケット、餅つき…特別すぎないイベントがたくさんあって、「ああ、こんな日常いいなぁ」と思わずにいられません。誰しもがちょっとしんどい過去のひとつふたつ持っているのでしょうが、だからこそ何気ない当たり前の時間を心を許せる誰かと優しく過ごせることが愛しいのです。

ドラマティック過ぎず、ごく人間的で自然な心の動きに沿って進む物語は、刺激的な展開で引き込むドラマとは一味違う温かいコーヒーのように染みました。美しい風景とともに繰り返し観たい一本になりそうです。


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喜怒哀楽ドラマ沼暮らし

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