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「恋はチーズ・イン・ザ・トラップ」 - 相手を変えるのではなく、自分が変わる

★★★★★+

韓国のドラマの面白さを知ったのはだいぶ最近なのですが、中でも深みに刺さったのがこのドラマでした。

もともとは「トッケビ」で韓国ドラマの沼に踏みこんだので、キム・ゴウンの他の作品が気になったのと、なにげなく観た「マンツーマン」でパク・ヘジンの独特の美しさに惹かれた流れから、そのふたりが主演するこのドラマに辿り着きました。強烈な人気を誇ったウェブ漫画が原作。完璧だけどキケンな先輩と子犬系ピュア男子が不器用女子をめぐってバトルするミステリアス・ラブコメディ。そんな謳い文句です。

アルバイトをしながら大学に通う真面目な秀才女子、ホン・ソル(キム・ゴウン)。彼女はふとしたことから、みんなに慕われルックス・頭脳・運動神経・家柄まで完璧なユ・ジョン先輩(パク・ヘジン)の実は冷徹な本性を見てしまいます。その日を境に、ソルに嫌がらせをするようになるユ・ジョン。ソルは休学を決意するまでになりますが、突然授業料が免除になる知らせが届き休学を諦めることに。するとそこに別人のように優しくなったユ・ジョンが現れ、打って変わってソルに好意を見せてくるのです。何か裏があるのではと戸惑うソルですが、顔を合わせればごはんに誘ってくるユ・ジョン。そんな中でユ・ジョンとどうやら深い因縁がある幼なじみのペク・イノ(ソ・ガンジュン)が登場し、これまたソルに興味を持つように。複雑な三角関係が展開して…。

タイトルもタイトルなので、最初はコテコテのラブコメなんだろうなと思って観始めたんです。1話目は、よくあるいじわるな完璧イケメンの先輩と決してイケてない一般人女子の恋物語っぽく始まるわけですが、少し進むと「おや、これは少し様子が違うぞ」となりました。

たぶんその違和感は、キム・ゴウンの圧倒的にリアルな感情表現ゆえのものだったと思います。彼女演じるホン・ソルがパク・ヘジンのユ・ジョン先輩の気持ちを測りかねて困惑する様子は、恋愛の枠にとらわれず、もっと言えば国や文化にもとらわれず、誰しもがぶつかる人間関係の困難の核心を描いてるように感じました。

そう、他人の気持ちというのは基本的にまったく分からないものです。分かろうとするのは傲慢です。ユ・ジョン先輩に至っては宇宙人くらい土台の価値観が違う相手。でも傷つきながら少しずつでも近づこうと努力するソルの姿に、心から誰かと寄り添おうとしたら本当はこのくらい大変なものかもしれないとじわじわ思い始め、ユ・ジョン先輩も次第にその違和感に気づいて苦しんでいく過程は胸が苦しくて刻みつけられる気分で観ていました。

相手を変えようとするな、自分が変われ、と、そう言われ続けるようなドラマ。

個人的にもっとも心を打たれたシーンは、終盤にまた「やってしまった」ユ・ジョンをソルが抱きしめるシーン。
ユ・ジョンの孤独と、彼のメビウスの輪のように出口のない思考の迷路と、それでもソルを失いたくない純粋な想いをソルが汲みとって言葉をかけるシーンに、丁寧に時間を積み重ねれば、まったく違う場所にいた他人同士がこうして共鳴して手をとってあげられる時も来るのだと思えて、どこか救われた気持ちになりました。

そして、だからといって決して安易なエンディングを迎えないところもまた、人の心が一筋縄ではいかないことをよく表していると。

全体にはポップさもあり、良い音楽に彩られた観やすいドラマです。ですが一貫して、主演ふたりの複雑なのに素直な心情の演技の秀逸さに惹き込まれてやまない作品でもあります。その脇をかためる役者陣は、濃いキャラクターでアクセントをつけています。

観終わると、今まで感じたことのない染み込むような余韻がありました。

シナリオとキャストと、音楽と。いろいろなバランスが自分にとってど真ん中だったのだと思います。韓国ドラマであることももはや関係なく、ひとつの作品として大好きなドラマです。


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喜怒哀楽ドラマ沼暮らし

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