「悪魔判事」 - 目には目を。ディストピアで語られる復讐の作法
★★★★★
仮想韓国で法廷ショーを取り仕切る美しき悪魔のような判事の物語…と言われるともうゲーム(逆転◯判)のようなイメージしか浮かびませんでしたが、とりあえずビジュアルが非常にいいのとtvNっぽさが増し増しな世界観だったので我慢できず観始めることに。
どこかコロナも連想させる正体不明の伝染病の流行を経た仮想の未来において、ディストピアのようになっている韓国(外見的にはまだ馴染みのある街並みですが)。そんな韓国に、これまでとは抜本的に異なる正義を実践すべく全国民が視聴参加できる「ライブ法廷ショー」という新たな形の裁判が登場します。
この法廷の主人公とも言うべきなのが、司法裁判部の裁判長カン・ヨハン(チソン)。抜群のルックスと、法をもって場を作り上げる天腑の才能により圧倒的な大衆の支持を受けるヨハンは、まさに映画か漫画の主人公のように華やかに罪人を裁いていきます。
そんなヨハンのもとで働く若き判事のキム・ガウンを演じるのはGOT7のジニョン。オ・ジンジュ判事(キム・ジェギョン)とともに見目麗しく、法定ショーの人気に一役買うことに。腐敗した古い司法システムをすっかり信用しなくなっていた国民はこの新しい法廷ショーにすっかり夢中になっていくのです。
一方で大統領府と検察、そして大メディアのトップといった権力者たちはヨハンの様子を注視していますが、ヨハンは決して権力におもねるわけではなく、かと言って純粋に正義の人にも見えず…。次第に各勢力と堂々対立していくように。ガウンもまたヨハンに長らく疑いの目を向けている一人なのですが、次第にヨハンとの距離が縮まり、彼の謎めいた私生活が垣間見えてきます。
もつれあう権力者たちの思惑は基本的に自らの損得が全てなので絶対の仲間や味方関係が存在しないのがミソ。強烈な復讐の炎を宿すヨハンが彼らを燃やし尽くすことができるのかが物語の面白さの礎となります。また、実は同じく復讐の意志を静かに滾らせているガウン。ヨハンとガウンはいつしか手を取り合うことになりますが、この二人の時に水と油のように相容れず正面衝突することもあれば、時には家族のような慈しみが見え隠れする不思議な関係性が次第にやみつきになってしまいました。
また物語に欠かせないピースである最大の敵が、キム・ミンジョン演じる「社会的責任財団」のチョン・ソナ。国民のための楽園を作ると謡いながら私腹を肥やす、教科書通りの悪役である「社会的責任財団」ですが、ソナはさらに拗らせたキャラクターとしてヨハンの前に立ちはだかります。
キム・ミンジョンは「マン・ツー・マン ~君だけのボディーガード~」のイメージが強く、そこでは圧倒的ヒーローに愛されて守られるヒロインが今ひとつハマらない気がしたのですが、この「悪魔判事」のような毒の強い役柄だと美貌も演技もものすごく活きていて驚きました。
ジニョンの演技も不思議な力を感じるというか、育ちの良さそうな外見なのに荒れ狂うような怒りを腹の奥に抱えている様子が真に迫っていてなんだか目が離せなくなりました。チソンの存在感はいわずもがな。皇帝のようなオーラ、「君臨する」という表現がぴったりハマります。3人の判事が黒のロングコートの裾をはためかせて並ぶ姿は絵になりすぎてため息が出ました。
最終的に見えてくる真実は、私としては(いい意味で)期待通りでした。まさに魑魅魍魎の坩堝と呼ぶべき状況の中にも浮かび上がってくるのはそれぞれの人情。誰もが悪魔のような面を見せながら、自分なりの正義もあるのでしょう。そもそもがファンタジーな舞台なので、デフォルメされた人間の醜さが究極の面白さでもあり。
いろいろな側面がありますが、やっぱり一言でまとめるならば「かっこいい」のです(語彙)。復讐の筋立て、キャラクター、映像、音楽…スタイリッシュにまとめ上げられた物語が派手派手しく花火を打ち上げて終わる様子は正統派ではありますが爽快で、真実が分かった上でもう一周したい、そんなドラマでした。
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