見出し画像

「ムーブ・トゥ・ヘブン: 私は遺品整理士です」 - 韓国ドラマらしい妙味ある世界

★★★★+

なんとなく、「良いドラマなんだろうな」と直感的に感じるティザーとタイトルのドラマでした。そして実際に観終えて、質の高い一本だったと思います。まさにNetflixの韓国ドラマらしさを感じる世界観と言うか、概ね穏やかなテンポで少し謎解きの要素も交えながら進んでいくのですが、趣があって登場人物たちの互いを思いやる心が優しい。全10話でコンパクトにまとまった、そっと泣ける作品です。

主人公のグル(タン・ジュンサン)は20歳の青年。母は早くに他界し、父と二人で遺品整理業の会社「ムーブ・トゥ・ヘブン」を営んでいます。グルはアスペルガー症候群で、他人の感情を読み取ることが苦手ですが、遺品整理の現場では常人離れした記憶力と断片的な手がかりを瞬時に結びつける閃きから、死者が本当に望んでいたことを手繰り寄せる才能を発揮していました。いわゆるサヴァン症候群のようなものでしょうか。以前あった中居正広のドラマ「ATARU」を思い出しました。

そんなグルに遺品整理の仕事を教え、親として惜しみない愛情を注いできた父ジョンウ(チ・ジニ)が、ある日心臓の持病で急死してしまいます。そしてジョンウとグルをよく知る弁護士のヒョンチャン(イム・ウォニ)によって連れてこられたのがジョンウの弟であるサング(イ・ジェフン)。サングは前科持ちで出所したばかりと言う曲者で、ジョンウにも何か恨みがある様子。ジョンウの遺言でグルの後見人に指名されているサングは、まずは3ヶ月グルと暮らしながら「ムーブ・トゥ・ヘブン」の仕事を手伝い、何事も問題がなければ正式に後見人になると言うことなのですが、とりあえずグルの家と財産を狙っている雰囲気ばりばりにやって来ます。

しかしサングの思惑は特に気にならないグル。淡々とサングに遺品整理の仕事を教え、黙々と現場に向かって仕事をこなしていきます。その中で出会う死者たちとその家族の物語。彼らにとって最善の弔いを考え実行するグルの姿に、サングも思うところが芽生えていきます。

グルの行動は基本的に論理的な根拠に基づいており、グル自身はアスペルガー症候群のため人の感情が読み取れないと説明されますが、根本的には人間の喜怒哀楽を深く理解していて、こと死者の想い遺しをそのままにしておけないところがあります。

サングはサングで、当初のやさぐれた感じはどちらかと言えば「自分は不幸だ」とふてくされた子供のような感じで、根は情に厚くて弱いものいじめが許せないタイプ。たまに向こうみずに突っ込んでいってしまうグルにも次第に共感し手伝うようになります。

もちろん背景や事情はさらに複雑に込み入っていて単純にグルとサングが打ち解ければ良いわけではないのですが、このふたりが築いていく信頼こそがドラマの軸であり、癒しです。

また、グルの幼なじみでグルのことが大好きなナム(ホン・スンヒ)と遺品整理の現場で出会うソーシャルワーカーのユリム(スヨン)といった脇を固めるキャラクターたちもみんな温かみのある人々で、そもそもが人の亡くなった悲しい場所を舞台にした物語ではありますが、難しくしすぎずずっと人の優しさが滲む仕上がりになっています。あらすじを全部知っていてもきっとじっくり味わえる、そんなドラマです。

サングを違法賭博に呼びこむマダムという存在や、グルを助けてくれる検事といったサスペンス的キャラクターもいたり、ラストはまた次なる事件への予感を残していたり、シーズン2もあるのかな?というつくりなので、それもまた楽しみ。


▼その他、ドラマの観賞録まとめはこちら。

喜怒哀楽ドラマ沼暮らし

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?