「無人島のディーバ」 - 無人島生活15年を経た輝きを巧みに見せるパク・ウンビン
★★★★★
いよいよパク・ウンビン作品にハズレなしの気運も高まっていますが、このドラマもまた新たなる王道の名作となる気がしました。パク・ウンビンは演技自体はもちろんのこと、演じるキャラクターの才能まで再現してしまう、本当に万能な俳優です。本作の突拍子のない設定も、何よりも重要な主人公の歌声も、パク・ウンビンだからこその説得力で心から楽しめる物語に仕上げていました。個人的にはこれで劇中の楽曲が現実世界でも文句なしにヒットしそうな名曲ならば言うことなしでしたが…それを差し引いても面白いドラマだと思います。
ソ・モクハ(少女時代:イ・レ)は、歌手を夢見るチュンサム島の中学3年生。人気歌手のユン・ランジュ(キム・ヒョジン)に憧れ、彼女のようになりたいと願い大ファンです。ふとしたことで同じ学校のチョン・ギホ(ムン・ウジン)という男子との距離が縮まることに。
ギホは父親と二人暮らしなのですが、その父親・ボンワンは警察官で、ギホに対して凄まじい暴力を振るっていました。そんなギホとモクハは、夏でも夏服を着ていないというのが共通点。
とあるランジュが審査員を務めるオーディションに応募したいモクハは撮影できるカメラを持っているギホに撮影を頼み込みます。家出資金を貯めたいギホを説得してやってもらうことになりますが、初めはしぶしぶといった感じだったギホはモクハの歌声に心を動かされ、進んで映像をつくりこんでいきます。
そしてギホが仕上がったMVが入ったUSBを渡そうとモクハの家に行くとそこにはパトカーが。ギホの父も含めた警察官が2人やってきていました。そこでモクハの痣だらけの腕を見たギホは、モクハの事情を察するのです。家に戻り、自分のパソコンからオーディションに応募素材を送るギホ。
一方で人気絶頂のランジュは、マネージャーとともに事務所から独立することに。そしてチェックしていたオーディションの応募データの中でモクハの映像に目を留めます。モクハのもとに連絡をよこしますが、父親の暴力にすっかり打ちのめされてしまっている彼女はせっかくの誘いを断ってしまうのです。
その様子を見たギホはモハクに、次に父親に暴力をふるわれたら自分のもとへ来るように言います。そのときは必ず自分がモクハをランジュのところへ連れて行くと約束します。そして実際に父親が暴れ始めた夜、モクハは雨の中ギホの家へ逃げてきます。ギホはそんな彼女を連れて船着場へ。ソウルへ向かうべく船に乗り込みました。しかしそこにモクハの父親がやってきてしまいます。モクハを逃がすためにモクハの父親に飛びかかるギホですが、殴られて大怪我を負うことに。船の中まで追ってきた父親に追い詰められたモクハは父親もろとも海へと飛び込みます。
病院で目覚め、モクハとその父親が行方不明だと知ったギホは絶望の淵に立たされます。一方で生きてとある無人島へ流れ着いたモクハ。彼女はそこからなんと15年もの月日、その島でサバイバルすることになるのです…。
主要キャラクターがみんなまだ子役の初回から引き摺り込むパワーがとにかく強い物語です。無人島と言われるとどうもファンタジーな世界観を想像してしまっていたのですが、すべての始まりは予想だにしない壮絶な状況でした。親からの暴力から逃れて夢見る人生を生きるために島を飛び出そうとした子供ふたりが、まさかの試練に投げ込まれて15年という歳月を失うことに。この初回のずっしりとした質量がこのドラマのその後の面白さを下支えしているように思います。
奇跡的にもとの世界へ戻ってくることになるモクハは、すっかり凋落してしまったユンジェと出会い夢も時間も人生もすべてを取り戻していきますが、モクハにとって唯一無二の恩人で初恋の人であるギホの消息は分からず。ですがモクハが力強く夢を目指していくことで、もつれた糸は自ずと収束していくのです。暴力に苦しみながらも消えなかった青春の輝きはモクハとギホにとっての生きる意味であり、諦めさえしなければきっとふたりは幸せになれるのだと信じて観進める物語。何よりモクハには「無人島での15年に比べれば」という最強なメンタルが備わっています。
また、モクハとランジェの間に生まれる敬愛と信頼も心癒されるものがありました。純粋にランジェに心酔していて15年の無人島暮らしの中でもランジェが心の支えだったモクハと、落ちぶれてしまったとはいえ音楽を愛し、情の深いランジェ。出会ったことで互いを蘇生させるような味わい深い組合せです。
無人島でモクハを見つけたボゴル(チェ・ジョンヒョプ)とウハク(チャ・ハギョン)の兄弟がロマンスも担っていくのですが、序盤はチャ・ハギョンのチャラいけどモクハを大切にしてくれる様子にときめき、後半はボゴルの寡黙なようで誰よりもモクハを守っている姿にじーんとしてしまいます。恋愛というよりはむしろ家族のような慈愛を深めて行く3人にたっぷりと癒されました。
役柄に恥じない歌声で自ら歌うパク・ウンビン。冒頭にも書きましたが、楽曲がもう少しヒット曲然としていたら最高でしたが、「無人島のディーバ」を体現するパク・ウンビンのモクハで十二分に満喫できるドラマだと思います。「恋慕」「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」のあとにまだまだ代表作の可能性を見せるパク・ウンビンに拍手です(なお私はやっぱり「ストーブリーグ」が一番好きですがチェ・ジョンヒョプも出てるなそういえば)。
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