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ヤンキーとシフォンケーキ

ヤンキーくんが,私のとこにシフォンケーキを持ってきた。
ふわっふわのめちゃくちゃ柔らかくて,だけど甘すぎない,優しい味の紅茶のシフォンケーキ。

今どき見ないようなレアなヤンキーくんである。
おそらく地方都市にしか在住しないタイプの,コテコテの平成ヤンキー,いや,何なら昭和のヤンキーである。
髪の毛は金髪でボリューミー。
成人式には集団で袴を着て,ニュースで報道された。もちろん,バイクにも,乗る。暴走する。
しかも,そのような”武勇伝”を大声で話す。ていうか,声がそもそもめちゃでかい。目力がハンパない。

彼は私の職場にふらりとやってきて,他の職員に不審者と間違われて注意されていた。職場の人たちは,話をする私たちを,恐れの入り混じった表情で遠巻きに避けて歩いていく。

ヤンキーくんは,明らかに異質。
私を”ちゃん”付けで呼んで,「p_i_s_m_i_nちゃんいなかったら,今の俺はいねーからよー」とでかい声で話す。
ナイスヤンキー。
もっと私の宣伝をしておくれ。

久しぶりのヤンキー登場は,2年ぶりの現場復帰で元気のなかった私に思いがけないワクワクとエネルギーをもたらした。
彼は,私が大学院に入学する前に関わっていた子で,私が現場に復帰した,と聞いて会いに来たのだ。
なんて可愛いやつ。
そして,まんまるのシフォンケーキを袋に入ったまま,私にぐい,と渡す。
「これ,お土産で持ってきたから」
「おお。お前が自分で働いたお給料で買ったお土産をもらえる日が来るなんて」と
私は涙を拭う真似をする。

久しぶりに彼に会って,私は気づいたことがある。
それは,私に今足りないのは”ヤンキー性”だということだ。
4月に職場に復帰してから,私は憤慨したり,悲しくなったり,不安になったり,いろいろしていたのだけど,『大学院で心理を学んできたのだから,自分のココロはコントロールできてるわよ。落ち着いているわよ』を装っていた。
でも,すっかり学生生活を満喫してしまった私は,
ああ,ほんと現場はめんどくせえ,とか
は?それって本質的なことですか?とか
ムダな時間だよね,これ本当イライラする,とか
内心感じてもいた。
それを正論で言ったら,雰囲気が悪くなるだけだし,ただでさえ”院戻り”のめんどくせえ職員が生意気にめんどくせえ,なだけなのだ。
だから,また,私は「物分かりの良い」ふりをしてしまうところだった。

久しぶりのヤンキーくんとの再会は,私の中の”ヤンキー性”との再会でもあった。
だから私はワクワクしたし,”ヤンキー性”を非常に嫌う職場では,職員は自身の中の”ヤンキー性”から距離を取ったのだろう。
危険だから排除しよう,と,何もしていないヤンキーくんに「おい。君」と注意もした。

でも,そのヤンキーくんが差し出したのは,
ふわっふわのシフォンケーキ
なのだ。

見た目”いかちぃ”ヤンキーくんの中にも,
こんなに柔らかくて繊細なシフォンケーキな部分もあるのだ。と私は感じる。
丁寧にケースに入れて運ばなくちゃいけないくらい柔らかい部分が。

そしてまた,そのお土産を私にチョイスしたということは,彼自身のそんな柔らかい部分を私に投影していたのだと思う。
そして私もまた,自分のヤンキー性を彼に投影していたのだと思う。

彼との再会は,今の私が忘れかけていた”ヤンキー性”→私が今”生きていない影”を思い出させてくれた。
ああ,ほんと現場めんどくせぇ,上等,なのである。
少なくとも「物分かりの良いシフォンケーキ」だけではいられない。
どちらも私なんだ。
ヤンキー万歳。

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