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インタビュー調査の科学的分析法②〜因果対立関係分析法


「上位下位関係分析法」が「ニーズの層構造」の分析に特化した分析法であるのに対し、「因果対立関係分析法」はその他すべての調査課題の分析に用いられます。その応用範囲の広さは、この分析法が「論理学」を基礎にしたものであることに理由があります。調査で得られている情報の解釈は論理的に記述されなければ単なる主観にしか過ぎないわけですから、すべての調査結果は、そこから少なくとも「洞察」=「インサイト」を得ようとする限り、論理化される必要があるわけです。そして論理学を基礎としているということは、この分析を通じてカオスな情報が論理的に構造化、見える化されるということであるわけですから、いわば定性情報分析の原理・原則そのものを手法化しているということであるわけです。

※「インサイト」という言葉は多義的に使われていてその実体は意味不明であることが多いのですが、私は「調査から提供される情報の中で、「事実」(ファクト)を根拠として洞察・解釈・推察された「事実」以外のマーケティング課題解決に寄与する情報」と定義しています。その代表的なものは「行動や意識などの事実から洞察される潜在ニーズ」ですが、調査から洞察されなければならマーケティング課題解決のための情報はそれだけではありません。

また、論理的に構造化するということは、市場のメカニズムを明らかにするということに他なりませんから、市場、消費者において企業が望む反応を得るための施策の方向性を明らかにすることができるわけです。

論理学における「関係」とは「因果」、「対立」、「類似」、「例示」、「並列」がありますが、この分析はそれらの関係を要素間に見出していくものです。そしてこの分析で特に重視するのは「因果関係」と 「対立関係(矛盾・葛藤関係)」です。

この分析は以下のような手順・考え方で行われます。要素をカード化するとか、グループで3つのルールを守って行うという手順や考え方は上位下位関係分析法と同様です。

1、考え方
上位下位関係分析法同様に、基本は単純で、抽出されたニーズを因果と対立で関係づけていきます。因果関係を確認するためのキーワードは「だから/そのために」(上から下)と「主として何によってそうなったのか」(下から上)であり、対立関係を確認するためのキーワードは「だが・しかし」もしくは「にもかかわらず」です。対立関係というのは矛盾関係でもあり、葛藤関係でもあります。つまり、両立しないこと、両立させるためにはトレードオフが発生すること、二律背反であることなどと考えます。この関係には「方向性」があります。A but Bの場合、AからBへの対立関係となり、分析図上はA→Bと矢印で表現します。この関係は、両方向である場合もあり左右両方向の矢印で表現します。

また、因果関係についても、AだからBと、BだからAの両方が成立する「循環関係」である場合もあります。この場合も上下両方向の矢印で表現します。

2、手順

①カード化
インタビュー中に発言された「ナラティブ」から「間接観察」で調査課題ごとに、その課題の領域において「原因系」となる「背景・状況」、「刺激」と「結果系」となる「行動・感情・態度」をセットにしながら読み取ります。その中には生理的要因や心理的要因などの内部要因も含まれますから当然「ニーズ」も含まれることになります。

読み取った情報は個別に要素化します。作業としては一つの要素を一枚のカードに転記していきます。カード化は調査課題ごとに行うのが基本です。同じ発言でも、調査課題によって解釈が異なることがあるからです。

「個別に要素化」するというのは、調査課題に対して必要最小限の意味を持っていながら、その1枚のカードの中には因果や対立などの「関係」を含んではならない(すなわち、接続詞は存在しない)ということです。

また、「読み取る」わけですから、カードには客観的事実ばかりではなく、「解釈」された内容も含まれます。高度な内容になるのでここでは省略しますが、「発言内容」と「解釈された内容」が対立関係になる場合もあります。それは「言ってることと実際(やってること)」が矛盾しているということなのですが、そういったところに対象者の深層心理に迫る扉が隠されている場合が多いものです。

※「調査課題」の例として、例えば、「商品評価」が調査目的であった場合においては「商品コンセプトの印象・イメージと選択実態」及び「商品の利用実態と満足状況」のようなことが各調査課題となります。

②「分ける」
カード化されたニーズを一対一対応で一枚ずつその関係を検討していきます。同類(例示・類似)のものがあれば束ねておきます。少しでも違うと感じたものは違うものであると判断します。似ているが意味が違うと考えられるものはその違いが明確になるように表現を変えても構いません。関係があれば上下にもしくは左右に関係づけますが、なければ横へ横へとずらしていきます(これは並列関係)。コツコツとした作業となります。尚、途中で「読み落とし」に気づいたような場合を除いては、基本的にこの分析法では上位下位関係分析法のようにカードを追加していくことはありません。

③「島化」から「文章化・要約」
カードを分けて関係づけていくと、意味のある情報の塊が「島」となって形成されてきます。作ったカードが全て関係づけられた時点で「分ける」作業は終了となりますが、1枚だけで形成される島ができることもあります。

各島はカード同士の論理関係で構造化されています。論理関係であるということは文章化ができるということになります。そこで、各島をそれぞれに文章化し、その島が調査課題に対して意味するところを「洞察」し、それを「つまり・・・ということだ」と要約します。その要約を各島の意味として「表札」とします。

 ④「島間の関係発見」
多くの場合はそこで分析を終了しても調査の結論としては十分なのですが、より深く市場を把握したい場合や、状況が複雑であるような場合には、さらにできた島間の関係を洞察するという作業を行います。

手順としては、いきなり各島間の関係について考えるのではなく、各島の要約に対して、「なぜそのようなことになっているのか」という背景をステップバイステップで推測していくという手間をかけます。背景要因を考える際には、企業側要因、消費者側要因、社会的要因、自然環境要因など、調査課題・目的も考慮に入れながら観点を変えながら考えるようにします(例えば商品改良が目的の場合は企業側(商品側)要因を主に検討するといったことがあります)。そして共通の背景要因がでてこないかを探るわけです。その際のキーワードは因果関係のものと同様です。この方法を「ステップ法」と呼びます。ステップ法を使うのは、既存の概念に囚われないので発見を生むことが多いからです。。

必ずしも島間に共通の背景要因があるとは限りませんが、すべての島間の関係について検討をするようにします。それは、市場、消費者をより深く洞察するためであり、また、統合的に理解しようとするためです。すなわちこれは、「統合化」の作業であるわけです。

この作業の例ですが、例えば、最近の若者に対しての他の世代の評価が「人間関係が苦手」であったりとか、「考えるプロセスを省略して答えだけを求めようとする」といったことが出てきた場合に、その背景を考えると「リアルよりもバーチャルでのコミュニーションや情報収集が増えている=すなわちバーチャル生活のウエイトがリアル生活のウエイトを超えている」といった背景が出てきたりするといったことが挙げられます。このように背景については当該調査の中だけで考える必要はなく、既知の知見を含むことは何の問題もないわけです。

因果対立関係分析法では上位下位関係分析法のように基本的にカードの追加は行わないと説明しましたが、このプロセスでは新たな洞察によって情報が追加されることになります。

3、因果対立関係分析法は定量調査の分析にも使われるべきである

定量調査の分析というと、基本的には統計的な処理であったりとか、クロス集計であったりすると理解されているのですが、この分析法は定量調査の分析にも使われるべきなのです。なぜならば、定量調査によって得られた数字はそれ自体何の意味も持たないからです。例えば、ある商品コンセプトの利用意向が30%だと言っても、それは高いのか低いのかは何か他のものと比較しないと判断できませんし、高いと言ってもそれまた、それだけではその商品を商品化するべきなのか否かなのかの判断はできないわけです。

その判断をするためには、数字を色々な観点から見て解釈をした上で、その解釈結果を構造化して判断する必要があります。

以下は、ある商品コンセプト調査の量的結果を解釈した例です。

「利用意向は過去の商品より高いが(対立)、現在の競合よりは低い。しかし(対立)、特定の消費者層においては特に利用意向が高い上に(並列)、その層においては現在の競合は利用されていない。すなわち(因果)独占できる。その市場規模は〇〇と推計できる(因果)。これは現在の商品よりも売り上げとしては高くなる可能性を持っている(因果)。故に(因果)このコンセプトは商品化するべきである。」

定量調査においても、その結果に関して上記のような論理を作らないと判断ができないわけです。これは正に、定量調査の数字を解釈した結果を論理的に構造化したものに他ならないわけですから、この分析法が応用できるわけです。

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