「意識マトリクス理論」は革命を起こす!~凡人でも必然的にインタビューからイノベーションを起こせるようになった!
「都市伝説」をあげつらうだけで相当のエネルギーを費やしました。しかし巷で盲信されている都市伝説はやはり都市伝説でしかなく、それには必ず何らかのカラクリ、ワケがあるということが説明できました。そしてカラクリ、ワケがわかれば対策することが可能です。
今までそのカラクリ・ワケを明らかにする努力というか、探求というかがされてこなかった為に都市伝説は都市伝説となるに至ったのです。
その根本要因はインタビュー調査を科学として考えるという態度が無かったことにあると思います。いわば「人に話を聞く」という誰にでもできることなので、その必要を感じてこなかったのでしょう。それと表裏一体ですが、インタビューが徒弟制度的にしか伝えられない「職人芸」であるという見方もインタビュー技術の進化を阻んできたと考えます。
しかし我田引水となりますが、師匠らがそうされたように、私は現場の職人として浅学非才の身ながらインタビューを科学として捉えようとおよそ30年間苦闘を重ねました。一気にそれが進歩したのは「意識マトリクス理論」を自らが発見・構築したことにありました。世間ではまだ広く知られても認められてもいませんが、この連載で論じてきたように、この理論は定性調査の本当の意義を改めて明らかにし、そのための有効な方法論に明確な示唆を与えました。それは私にとっては徒弟制度的に師匠や先輩から教えられてきた「経験論」を後付けながら、改めて理論化するものでした。例えば前回の記事のように経験的にグルインの最適人数だと言われてきた人数に対しての理論的裏付けができるまでに至ったわけです。また、インタビュー調査に対して世間で言われている疑問や不審を一気に解決することも可能にしました。すなわち冒頭で申し上げたところの「カラクリ・ワケ」を明らかにしたのです。
このところ紹介してきた「都市伝説とその対策」の根本は一言で言うと「アクティブリスニングインタビュー(ALI)の手法・手順を守れば都市伝説問題は起こらず、回避できる」ということなのですが、このアクティブリスニングの根本原理は意識マトリクス理論にあります。そして、ここまでに説明させていただいてきたように、ALIは従来の「実は」アスキングで行われていたIDIやFGIと呼ばれていたインタビューから得られる情報を質量ともにはるかに凌駕する情報を得ることができるものになっています。具体的には「タテマエやウソのノイズ情報しか収集できないS/C領域への侵入を回避しつつ、企業の目には潜在している生活者のホンネ、実態の情報がある「宝の山」=C/S領域へ侵入し、具体的かつ構造的な情報が得られる」ということに他なりません。
この意識マトリクス理論とALIは、師匠の梅澤先生の「GDI理論」や油谷先生の「主体の分裂理論」あるいは内田先生の「グループディスカッション理論」などがあってこそ見出されたものであり、決して私一人の力によるものではありません。むしろ先生方が本当に言いたかったことを解き明かしたものだと考えています。先生方はもはや業界でも忘れかけられている人たちですが、日本にインタビュー調査を定着させた彼ら巨匠の業績や理論について改めて目を向けるべきだと考えます。それこそが「背骨」や「基本」となるものだと考えます。それが無ければ上手くいくものも上手くいきません。基本なくして、上手くいかないからと浮草のように現れては消えていく「新手法」を青い鳥のように追いかけていては事態を拗らせるばかりで「蓄積」が生まれません。我が国の定性調査はまさにその繰り返しではなかったのかと私は思っています。背骨がないので、身にならないのです。
意識マトリクス理論は定性調査・インタビュー調査の概念、認識を正し、本来あるべき王道に戻します。ここまでのこの連載がその具体的内容であったのですが、まとめとして意識マトリクス理論をベースに定性調査やインタビュー調査を再定義すると、
■インタビュー調査とはアスキング(訊問)ではなくリスニング(傾聴)である。
■インタビュー調査とは言葉の収集ではなく、言葉を介在させた市場や生活の観察である。
■インタビュー調査とは「意見」の収集ではなく「実態」の収集である。
■インタビュー調査とは個人個別を知ろうとするものではなく生活の中にある具体的事象を知ろうとするものである。
■具象を数字という表現で抽象化しようとするのが定量調査であるのに対し、カオスや抽象を言語という表現で具体化しようとするのが定性調査である。
■数字という抽象からその背景にある具象をインサイトするのが定量調査であり、言葉や観察にあらわれた具象から心理やアイデアなどの抽象をインサイトするのが定性調査である。
■定量調査とは過去あったことを検証しようとするものであり、定性調査とは未来に起きることを予測しようとするものである。
などなどが顕在化しました。これらは現在の定性調査の実態に対して正にコペルニクス的転回であり、イノベーション、革命に他なりません。これらの概念で定性調査、インタビュー調査を捉えたからこそ都市伝説も一気に解消したわけです。この「転回」が無ければ都市伝説は都市伝説のままであるわけです。
また意識マトリクス理論とALIは多くの発明家、イノベーター、アントレプレナー達がこぞって否定した「役に立たない市場調査」に対して「役に立つ生活調査」とでも呼ぶべき新たな地平を開拓しています。
上表のように「市場調査」を否定した彼ら天才たちは、下表のような「生活調査」を自らの才能でやっていましたが、それを再現性をもって我々凡人が可能にする道筋を明らかにしたのも意識マトリクス理論です。
彼らの目指したのは既存商品を改良することではなく、また既存の市場を奪取することでもなく、自分たちのできることで新たな市場を拓き需要を創造することでした。その為に意識的なのか、無意識的なのか、市井の人たちの生活を観察していたわけです。ここが「市場」しか目に入っていない凡人と異なるところです。これは意識マトリクス理論的に言い換えると「自社のシーズ、リソースを極力活用しながらイノベーションを起こすアイデア、コンセプトを得るために、C/S領域にある生活者の生活を観察すること」です。
これを意識マトリクスマップで表現すると下図のようになります。C/S領域で発見された「機会」(潜在ニーズ)と企業側の「シーズ・リソース」がマッチングされて「イノベーション」が創造されます。
C/S領域は本来の定性調査であるALIのような非構成的な定性調査でしかとらえられないわけですから、「定性調査は生活者の生活にイノベーションを起こせる手法、起こすための手法である」と言えるわけです。ここまでに説明してきたような意識マトリクス理論に則った方法で行えば、再現性をもって本田さんたちにも納得していただける定性調査ができるようになったということです。これによって、定性調査の定義をこのようにすることもすでに提唱しました。
「定性調査・インタビュー調査とは、生活者に対して新たな満足=イノベーションを提供するために、企業側には潜在していて設問できない生活者の生活意識・行動を具体的かつ構造的に把握するための非構成的調査であり、生活工学的観点によるリスニングで行われなければならないものである。」
これらもまた革命的なことだとご理解いただければと思います。すなわち「市場調査は独創的新製品開発(イノベーション)の役には立たない」と言われていた最大の「都市伝説」を打破するからです。
そろそろこの「生活者の潜在ニーズを把握して行うイノベーション開発」の領域の話をしていこうかと考えています。
乞うご期待。