インタビュアーのトレーニング【実践編】②~実査見学から副司会
またまた調査会社の批判となりますが、クライアントはそのインタビューで億単位の投資を行うようなことや、何十億の売り上げに影響を及ぼすことになるのだとしても、リサーチャーは自分が行っている調査結果の使われ方の認識が希薄なことが多く、それに見合った「緊張感」(「緊張感」とは何も硬くなれと言っているわけではなく、いわば リラックスしながらも集中しているアスリートのテンションです)が感じられないことが多々見受けられます。それは「聞けと言われたことを訊けばOK」だと安易に考えているからでしょう。しかし調査に知識・経験が豊富なわけではないクライアントが「聞いてくれ」と言ったことを完璧にこなしても、実はクライアントが直面しているマーケティング課題が解決できないことの方が多いもので、そこがプロとしてのスキルによって、課題解決のためには必要だがクライアントが気づけないでいる情報をとってほしいということがクライアントのニーズです。
クライアントはインタビューをするためにコストを使っているのではなく、マーケティング課題を解決するためにコストを使っているのです。
それを考えると、新人を無責任に司会席に座らせることなどできないですし、座らされる方も安易にそれを受けてはならないわけですが、しかし、どこかで新人にインタビューの経験をさせないと、いつまでたってもスキルが身につかないことになります。
この経験の一つが前回述べた模擬インタビューです。出席者体験を主に説明しましたが、同時にインタビュアーの体験もされているわけです。また、会議の時などにそれとなく司会の練習をするということも訓練になります。特に、出席者同士のディスカッションが行われるような場面はモデレーションの練習にはうってつけです。こういう地道なトレーニングで経験を積む努力をすることが必要です。
しかしやはり練習は練習なのであって、本番とはいろいろな意味で違うわけです。
では本番デビューはどうすればよいのか?ということになります。それには「見学」と「副司会」という方法があります。
この前段階としては、ビデオやバックルームでベテランのインタビューを何度も見学することも推奨されます。その時には、ベテランのインタビューと同時に自分もインタビューを行っているつもりでシミュレーションしながら見るわけですが、それによって、自分が考えた進行とベテランの進行の差、違いによって自分が気づかなかったことに気づかされることがあります。
副司会とはそれを経た後に最初は本司会のアシスタントとして隣に着席して現場に入るというものです。これによって現場の雰囲気に慣れながら、指導者である本司会のインタビューの進行を見てさらに学ぶわけです。慣れてくると本司会から適宜確認や話題の提示を任すことでさらに経験を積ませるわけです
ビデオで見るのとバックルームで見るのでは伝わってくるものが違いますし、さらにバックルームで見るのと現場で見るのでは空気感、雰囲気などがわかります。例えば、インタビュアーや出席者の息遣いなども感じられるわけです。
さらにレベルが上がると今度は本司会とアシスタントの立場を入れ替えます。トレーナーのアシスタントはトレーニーである本司会の進行が上手くいかない時や適宜確認の抜け漏れが生じた場合にはピンチヒッターとしてサポートします。さらにレベルが上がると、トレーナーはバックルームに待機し、緊急事態の時にのみサポートに入るということになります。
当然、セッションが終わった後にはトレーナーとトレーニーはその反省、レビューをこれまた「感想戦」のように行います。
このようなトレーニングを経てインタビュアーは独り立ちできます。
さて、前回、自分の表情やしぐさがリアルタイムで確認できるオンラインインタビューのトレーニング上の優位性について触れましたが、さらにオンラインインタビューにはトレーニング上の大きなメリットがあります。それは、この場合トレーナーは対象からは見えないのですがトレーナーとトレーニーが同じ部屋にいてインタビューに関する指導や指示をリアルタイムで行えることです。具体的には、横や前からメモやホワイトボードで指示をしたり、手振り身振りで対応を指示するといったことを行います。
これは実際にオンラインインタビューの経験を積む中で発見した隠されていたメリットでした。なので、新人のデビューはむしろオンラインで行う方が良いのではないかとも思っています。これからの検証課題です。