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「イノベーション統一理論⑫~「商品価値観点」と「生活価値観点」の関係性=「ニーズとシーズは求めあう」

最近の記事について簡単にまとめてみると・・・

⓵イノベーションの理論には「商品価値観点」のものと「生活価値観点」のものがある。
②それらの理論は「生活工学」の概念の下に統合できる。すなわち生活工学がイノベーションを起こす原理となる観点である。この観点では、油谷理論、梅澤理論、キム・モボルニュのブルー・オーシャン理論、クリステンセンのジョブ理論は同じことを違った角度から説明しているに過ぎない。
③海外のアカデミアの学者が提唱している後者2つの理論よりも、日本の現場のたたき上げのマーケターが提唱している前者2つの理論の方が熟成されており手法などの点で優れている点が多い。


ということでした。

それでは次の論題として、「商品価値観点」と「生活価値観点」の関係について述べたいと思います。

まず、以前にも述べましたようにこれらは表裏一体の関係にあります。それを示したのが下図でした。商品価値としてH(ハイレベル)と感じられるものはより高い生活水準をもたらす「ベターニーズ」に応えることで生まれ、N(新しさ)を感じられるものはより新しい生活をもたらす「ディファレントニーズ」に応えることで生まれます。

商品価値とは商品を構成する要素・特徴(シーズ)の組み合わせから生み出され、生活価値とはオケージョナルな生活ニーズ(Doニーズ)に応えることで生み出されます。

しかしこれらはお互いに独立では存在し得ません。なぜならば、商品アイデアとして商品を構成する要素・特徴(すなわち「シーズ」)の新たな組み合わせ(新結合)を思いついたとしても、それが何らかのニーズにこたえていなければ生活者、消費者にとっては無価値なものに過ぎないからであり、また、何らかの満足を生むニーズが顕在化していたとしても、それを満たすアイデア、シーズがなければこれまた何の価値も生じさせないからです。故に表裏一体なのです。

これを梅澤は「ニーズとシーズは求めあう」と表現しました。

新たなアイデアを思いついてもそれがニーズにこたえていなければそれは「アイデア倒れ」です。それが以前にご紹介したようにスタートアップの主要な失敗原因です。

「イノベーション」=「新たな満足の提供」という観点で考えた時には応えるべきニーズは「未充足のディファレントDoニーズ」に他なりません。それはほとんどの場合潜在しており「創造」しなければならないともご説明しました。その手段がCASです。

新たなアイデア、新たなシーズであってもそれが「ベターニーズ」にしか応えていなければイノベーションにはなりません。ベターニーズとは「生活上の問題」ではなく「商品の問題」を解決するニーズです。

「ニーズとシーズは求めあう」に話をもどしますが、商品とはこの両者があってこその商品だということになります。商品とはこの両者の組み合わせで成立するということです。つまり、商品開発の第一歩である「商品コンセプト」の開発というのは、この両者を明らかにして記述するということに他ならないわけです。消費者はその両者が提示されてこそ、その商品が理解でき、利用や購入の可否を判断できます。企業はその両者があってこそ、開発の目標と必要なシーズが判断できるわけです。

これを梅澤は「商品コンセプトの公式」として単純明快に表現しました。

「商品コンセプト」(C)とはそれを提示されたときに消費者がそれを「ほしいと思わせる力」と定義されています。即ちそれは「期待感」を生じさせるものであり、「満足」の基準ともなるものです。

商品コンセプト(C)はアイデア(I)ベネフィット(B)から成ります。

ベネフィット(B)はニーズの「〇〇したい」(消費者主語)の語尾を「〇〇できる」と変えたもので表裏一体の関係にあります。それはその商品の利用の目的であって、消費者がお金を払う対象であり、商品の魅力を規定するものです。ベネフィットは生活ニーズと同値ですから、生活価値観点といえます。

アイデア(I)はそのベネフィットを達成するための商品の要素・特徴の組み合わせです。すなわちシーズに該当するもので、機能(商品ができること)・状態(外観、デザインなど)・手順(使い方、買い方など)・構造(成り立ち)の4つの観点があります。これは商品としてベネフィットを達成するために必要な要素であり、企業がお金を使う対象です(どんなアイデアもそれにベネフィットが伴わなければ消費者はお金を払わない)。アイデアによって消費者は商品が期待されるベネフィットを達成できることの信頼度を判断し、商品選択の理由とします。こちらは商品価値観点であると言えます。

アイデアとベネフィットの間には因果関係が必要です。「ニーズとシーズは求めあう」関係ですから、どちらか一方だけでは価値は商品として顕在化しません。

イノベーションの4理論において、海外のアカデミアの理論は、この「両者が求め合う」という観点が欠落しています。例えばブルー・オーシャン理論に則り、商品特徴の観点で独自性のあるメリハリのある「価値曲線」が描けたとしてもそれがニーズに応えているのかどうか、というのは別の問題です。つまりそれだけでは売れるとは限らないのですがその点を検証する議論が不十分です。またクリステンセンの理論に則り、「片付けるべきジョブ」が見つかったとしてもそれを具体的に商品として形作る点の議論が不十分であるわけです。

一方日本の理論は非常に実務的、現実的です。

油谷NOHL理論の場合は「従来なかった商品要素の組み合わせ」がどのような「新しい生活」を生むのか?すなわちどのようなディファレントニーズに応えるのかという両面からの観点を持っています。

そして梅澤はさらに進んで、この公式のようにその両者の観点を統合し、明確に理論化、手法化しているわけです。この公式は商品開発に必要な要素を商品価値観点と生活価値観点の両面から表現した見事なものです。

このコンセプトの公式からイノベーションの原点を振り返ると、シュンペーターとドラッカーのいったことはまさにそれぞれ、この公式のアイデアとベネフィットの観点であったということに気づかされます。

この観点で既存商品のマーケティングとイノベーションを表現すると下図のようになります※

※この図は意識マトリクスの応用として発想したものですが厳密にはコミュニケーションを表現したものではないので意識マトリクスではありません。

既存商品の場合、すでに今の生活の中に位置づけられているために不可視のDoニーズは徐々に忘れられていきます。その代わりに「〇〇が欲しい」というHaveレベルのニーズで認識されるようになります。これはDoニーズの存在が顕在化しているHaveニーズの中に潜在化していくということであり、商品開発はその商品の仕様・特徴にのみ目が向いていくことになります。カテゴリー名を伝えるだけで応えるべきニーズは暗黙のうちに了解されているのです。これは「商品利用の目的」が「あたりまえ」のこととして潜在化し、「商品選択の理由」のみが意識されるようになるということでもあります。商品開発に携わっている皆さんが胸に手を当てて考えると思い当たることが必ずあると思います。

しかし、新カテゴリー商品の開発、すなわちイノベーションの場合にはどのような「新しい生活」を実現するのかという「商品利用の目的」が明確にならないと商品開発ができません。すなわち未充足の「潜在ニーズ」を明らかにする必要があるということです。アイデアを発想しただけでは不十分なのです。

ここがマーケティングとイノベーションの論理が決定的に違う点です。日頃マーケティングをやっている人がイノベーションの課題を与えられたときに最も苦労する点、理解できない点がここにあります。

最後になりますが、商品コンセプトの公式が示すように、アイデア発想法だけでもニーズ探索法だけでも商品開発はできず、その両方がそろって初めて商品開発が可能になるわけです。そしてこの公式から商品コンセプト開発を行う梅澤の「キーニーズ法」はまさに梅澤本人が言うように世界唯一の「商品コンセプト開発技法」として独自の高みに君臨している孤高の存在と言ってよいと思いますが、それが広く知られていないのは大変残念なことです。


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