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「意識マトリクス」入門〜「深掘り」はしない・してはならない。「大穴」が深さと正確さを生むコツ

インタビュー調査のクライアントから頂くご要望の代表的なものは「深掘りをしてほしい」です。それに対して私は「深掘りはしません」と返しますので、唖然とされるわけです。

この場合の「深掘り」とは2つの意味を持っているように思います。

1つは、「その場面・状況を『具体化』してほしい」ということです。

もう一つは「そうしている背景にある理由や目的を明らかにしてほしい」ということです。すなわち『構造化』です。

『具体化』も『構造化』も定性調査においては基本的に不可欠なことです。

しかしそれに対して「深掘りはしない」と申し上げるのは、前回に触れたように「ナラティブ」であるならば、そもそもその両方が自然に達成されるので、わざわざそれをアスキングする必要がないからです。そして「深掘り」すなわちアスキングをしてしまうことでS/C領域への侵入が起こり、ウソ・タテマエ・沈黙を生じさせてしまうからなのです。

また単純に考えても、アスキングをするということは、限られたインタビュー時間中にインタビュアーの発言時間が増え、一方で、調査対象者の発言時間が減るわけです。つまり、情報量を増やすつもりで行われる質問がかえって情報量を減らしてしまうというジレンマがあるわけです。情報量を増やそうというモチベーションは対象者が沈黙したり、発言が低調な時に高まるわけですが、すでに説明しておりますように、その「沈黙」はそもそもアスキングを行っていることから発生していることが多いわけですから、そこでアスキングを重ねると、さらに沈黙させてしまうことにもなります。これを『沈黙の悪循環』と呼んでいます。

つまり、「情報量を増やすためには、インタビュアーはなるべく質問しないことである」というパラドクスがあるわけです。そこに質問をせずに話題について自由に話してもらうアクティブリスニングの真骨頂があるわけです。

さらに、アクティブリスニングでは、アスキングでは偶然にしかでてこないC/S領域の情報が必然的に聴取されます。アスキングで聴取できるC/C領域の情報も当然聴取されるので、聴取される情報量はより広い範囲に及び、増えることになります。この情報量の多さこそが、S領域での推測をより深め、正確にすることになります。簡単に言うと、ある人について、様々な場面での言動を知っている方が、その人への理解が深まるということにほかなりませんし、ある一面しか知らなければそこまで深く正確な理解ができないということでもあります。きわめて当たり前の話です。

また、アスキングできる狭い範囲で「深掘り」をしようとすると、S/C領域に侵入し、ウソ・タテマエを引き出してしまうことになりますから、理解の正確さを欠くことになります。

これはより「深い」穴を掘ろうとするのならば、より「大きく」掘らなければならないというイメージです。「小さい」穴では、深く掘れません。

この理屈をイメージ化したのが下図です。聴取される生活情報の「オケージョン」が広いほどよりS領域の深層に至る分析が正確にでき、狭いほど、表層にとどまり、そこで無理をして「深掘り」をすると不正確な分析になるということです。この理論を「逆デルタ理論(大穴・小穴理論)」と呼んでいます。



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