インタビュー調査の常識・都市伝説のウソを暴く~諸問題の全体構造
前回大上段に構えてみたのですが、しかし、業界とクライアントを長年悩ませる諸問題の原因と対策というのは解き明かしてみれば実は非常にシンプルでした。シンプル故に大発見なのですが、それらの問題の根本は「定性調査」というものの大原則を外しているということに過ぎなかったのです。
これは不都合な真実の大暴露です。
もう少しかみ砕くと、
①本来、インタビュー調査の価値は「非構成的」すなわち「リスニング」でないと得られないものであるのに、それと気づかずに「構成的」な「アスキング」が行われていること、
②定性情報の分析スキルを持たずに定性調査に携わっている人が多いこと、
③そして、調査設計において「生活工学的観点」であるべきところが「人間工学的観点」に視野狭窄を起こしているということの3点です。
それらによって、「タテマエ発言が発生する 」、「グループダイナミクスが発生しない」、「脱線発言が発生する」、「出席者の集中力低下」、「長時間発言の発生」、「沈黙の発生」、「声の大きな人の発生」といったインタビュー調査の典型的問題が発生します。これらの問題はグループインタビューに関するものが中心ですが、デプスインタビューにおいても原理は同様です。これまた暴露すると、むしろ多くの場合積極的な理由ではなく、グループインタビューにおける問題を回避しようとする消極的な理由からデプスインタビューが行われていると言っても過言ではありません。グループインタビューの方が難しいのです。しかしグループダイナミクスの発生によって、ほとんどの場合、グループインタビューの方がはるかに効率よく質の高い情報を収集することができます。これまた常識のウソですが原理的にグループインタビューの方がデプスインタビューよりも深い情報になります。これは今後、詳しく説明したいと思います。
下図は諸問題とその原因全体のメカニズムを「因果対立関係分析法」によって明らかにしたものです。これも詳しくは次回以降に追って説明します。
そもそも論として、定性調査、インタビュー調査というものは意識マトリクス理論が明らかにしたように「調査主体側が質問できないが、調査対象たる生活者が持っている生活体験」(すなわちC/S領域の情報)を必然的に明らかにするところに意義があります。
それ故に、定性調査は「非構成的」であることを教科書的「大原則」としています。非構成的ということは設問しないということであり、すなわち、アスキングではなくリスニングであるべきだ、ということに他なりません。以下の定義はその意味で不十分、もしくは誤解を招くものだと私は考えていますが、この定義も、その他いかなる定性調査、インタビュー調査の定義も「非構成的」であるということは共通して謳われています。
ところが、その「理論」と「実際」が大きく乖離しているのが実態です。それは以前の記事でもインタビューフローの実態から明らかにいたしましたが、「非構成的」であるはずのものが、実は、「構成的」なものが大半であるということです。
これは上記の定義にも「質問」という言葉が使われているところや、先にも暴露しましたように業界でインタビュー調査を行っている人たちの大半が普段はアンケート調査を行っている「エキストラ」であることにに起因していると考えます。それによって、インタビューフローは意図せずしてアンケート調査と同様の質問が構成された「質問紙」になってしまうのです。これはかなり以前から下表のように「巨匠たち」が批判を繰り返してきたことでした。
そして、それがなぜいけないことなのかは「S/C領域への侵入」とそれによるタテマエ・ウソや粗雑な合理化の発生という現象として意識マトリクス理論が明らかにしたわけです。一方、宝の山であるC/S領域に侵入するためには「質問」ではなく「話題の提示」であることが必要だということも意識マトリクス理論は明らかにしました。
以下はインタビューフローの実例ですが、左側は一見「それっぽく」見えはするものの実は質問が構成された「質問紙」に過ぎないものです。それに対して右側は「話題の提示」であるというところに注目してください。しかし上記の通り、世にあるインタビューフローの大半は実は左側のものだということも調査の結果明らかになりました。先にインタビュアーの選び方について書きましたが「インタビューフローを見る」というのも有効な手段です。要は左のようなものではなく、右のようなものを作っているインタビュアーを選ぶべきだということです。
意識マトリクス理論は「C/S領域」を明らかにするためには「生活」という観点を持たねばならないということも明らかにしました。これこそが「生活工学的観点」に他なりません。これもすでに説明済みですが、人間工学的観点が「商品とヒト」の関係に着眼するのに対し、「生活工学的観点」は「商品と生活」の関係に着眼します。これは調査設計においては対象者の「生活体験」を重視するということであり、リクルート、インタビューフロー、分析などにおいて配慮されるべきものです。
自動車のインテリア開発を目的としたインタビューフローを仮定してみると人間工学的観点でのフローと生活工学的観点でのフローでは以下のような違いが出ることになります(左が人間工学的観点、右が生活工学的観点)。これまたインタビュアー選定の際には左ではなく右の観点でインタビューフローを作っている人を選ぶべきだということになります。
生活工学的観点に人間工学的観点は自然に包含されますからその中には商品とヒトとの関係の話も自然に出てくるわけですが、人間工学的観点に視野狭窄を起こした場合得られる情報は少なくなるばかりか、嘘やタテマエのノイズが入ってくることになります。そればかりかそれは沈黙の原因などになるというのも上図の構造分析が明らかにしました。
次回はこの全体構造の中で最も複雑と言って良い問題である「沈黙」の構造について説明したいと思います。