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インタビュアーの選び方~企画書・レポートを見る

最近のことですが、あるクライアントから新規案件のご相談をいただきました。投入した新商品の売れ行きが不調であり、コンセプトの見直しなどでなんとかなるものか、撤退すべきなのかの見極めをしたいということでした。

そこで私はこれまでの経緯と共に、その商品について過去行われた調査のデータがあれば共有いただきたいとお願いをしました。

我田引水ですが、この事は「クライアントの商品や事業に興味関心を持って理解しようとしているか」という一つのリサーチャーやインタビュアー選択の重要なチェックポイントです。先に詳しく触れると思いますが、オリエンの場で「この調査で何を調べたいのか、聞きたいのか?」という論点に終始するインタビュアーは決して採用するべきではありません。状況理解もなく的確なインタビューや分析ができるはずがないからです。そして、「何を聞けば良いのか?」というまさに「マーケティング課題を解決できるインタビューの生命線」をプロであるべき自らが提示しようとせず、クライアントの判断に依存しようとする態度であるということです。意識無意識に関わらず「言われたとおりに聞いたので、課題解決はあとはクライアントの責任」という態度丸出しなのです(笑)

さて、本題に戻りますと、共有頂いた資料の中にこのプロジェクトの比較的初期に行われたグループインタビューのレポートがありました。

まさに結果論とはなりますが、マーケティングの結果としてうまく行っていないので、この調査の設計やパフォーマンスが良かったとは言えず、また、細部を見ても「なるほどこうでは設計が甘い」と思わされるところはありました。しかし私の目を引いたのはこのインタビューの企画書部分の「お作法」が実にしっかりとしていたことでした。例えば、その「調査に至る経緯、背景」がしっかりと把握され記述されており現実の市場、業務のレイヤーにあるマーケティングの目的と課題がキチンと整理されていました。また、調査結果の具体的な利用法についても明記されていました。多くの場合これは「参考情報とする」といった程度にしか記述されないものですが、それでは本当に「参考情報」程度にしか役に立たなくなります。その情報が何にどう使われるのかの認識が希薄なインタビュアーは詰めも甘くなるのです。

しかし多くの場合、この現実のレイヤーについての記述が無く、「何を調べるのか」という調査のレイヤーの目的、課題の記述しかないことがほとんどです。

即ち、このような現実のレイヤーについての記述がしっかり具体的である企画書を書けるインタビュアー、リサーチャーというのは、市場、業務の「現場」で役に立つ調査ができる必要条件を備えているということです。

また、対象者条件の設定についてはその「設定理由」が個別条件毎に明記されていました。これも重要なことです。なぜその条件が設定されたのかはインタビューフローの話題、そして調査の目的・課題からマーケティングの目的・課題に連動するものです。したがってそれが検討されていないとそもそもの調査目的やマーケティング目的にかなわないことが発生してしまうのです。対象者の条件設定を間違うとマーケティングの目的は達成不可能ということです。

しかしこれも多くの場合思いつきで設定されていることが少なからずあるわけです。「思いつき」とは企画書には書けませんからそれが記載されていない企画書の企画レベルは推して知るべしなのです。

即ち、こういったことをしっかりと企画書に記載するというのは質の高い企画書の証であり、私は師匠からそれを「とにかく守るもの」という意味での「お作法」として学びました。なぜそうしなければならないのかが積み重ねた経験を通じて共感的に理解できるのはずっと後になってからですから、最初は「お作法」として、理由が理解できなくても、それをとにかく守ることが重要なことなのです。そうしないと、それはついつい省略されることになり、調査のクオリティを下げるわけです。そのお作法がきちんと守られているということは、仕事をいい加減にこなしてはおらず、真摯に取り組んでいるという証になるわけです。

また、「お作法」を守っているということは、その「お作法」をどこかで学ん人だということになります。つまり、「ちゃんと体系的な教育・トレーニングを受けた人」という証拠でもあるわけです。エキストラとかそれに毛の生えたような経験しかないインタビュアーが少なくない中、体系的な教育・トレーニングを受けたということはインタビュアーのクオリティを判断するために重要な要素です。

さて、この「お作法」というのは流派によって流儀もあろうかと思いますが、ここまで企画書を見た時点で私はこれを書いた人が「同門」の人であるということが分かりました。すると案の定、その後に続いていた「報告書」のパートにおいてはすでにご紹介しております「因果対立関係分析法」による分析が行われていました。これは間違いなく同門です。

しかしこの場合、「同門」であるということ自体が重要なのではなく、インタビュー調査の分析が一定の理論・手法に基づいて行われていることが重要だということです。でなければ定性情報は恣意的に取り扱うことがいくらでも可能だからです。つまり、報告書を見たときに、ポジネガでの発言分類や、発言者の人数による判断や、主観的で確たる根拠のない解釈をしている程度のものを「分析」としているようなインタビュアーは採用するべきではないということです。

さて、これらの観点はしかし、定性調査、インタビュー調査の専門知識、経験を持った人間でないと持ちえず、相当に高度な判断となります。そうでない場合にはどう見ればよいのか、ということですが、端的には、インタビュー調査のクライアント側1ユーザーの観点でその報告書の結論や提案など「結び」の部分を見てみることです。そこには冒頭の企画部分で明らかにされている調査の目的に応える記述がされているのか、そして、その状況におけるソリューションが明確に提案されているのか?を確認します。それがマーケティングの担当者として納得感のあるものであるのならその人は合格としてよいと思います。ただ発言情報を整理分類しただけの報告書ではそこにまでは至りません。「So What?」な報告になっているはずです。

この違いはインタビュアーの能力や経験を判断するのに最重要なポイントであり、専門知識が無い方にも比較的容易にインタビュアーの能力を判断できる手がかりとなります。

さて、多くの場合、インタビュアーに過去手がけた企画書や報告書の提出を求めると「守秘義務」を理由に拒否されると思います。しかし、固有名詞や核心部分をマスキングすることはそれほど大した作業ではありません。故に「肝心な部分は海苔弁にして構わない」という条件で提示を求めれば良いわけです。例えば、企画書における調査の背景、目的や報告書における結論や提案部分の固有名詞を消せば、何の報告かはわからないわけです。

それを拒否されるようでしたら、資料の提示はしなくても良いから、自分が過去行った調査での成功体験や自慢話を具体的な商品名や状況は省いても良いからということで話してもらうようにします(これこそインタビュー(笑))。そこで重要な判断基準は、調査を実施した後に、その結論や提案に基づいて、クライアントによって具体的にどのようなマーケティングアクションが行われ、その結果がどうであったのか?というところまでそのインタビュアーが語れるかどうかです。これが語れないということはすなわち自分の行ったインタビューがどのように活用されたかということを「構わない」人であるということです。それはつまりは冒頭に述べたこととは逆に「クライアントの業務に興味関心を持っていない」人であるということに他なりません。また、どのようなインタビューをすればマーケティングの現場で役立つのかの認識も持たれていないのではないか?ということになります。

さて、そのインタビューのレポートを見せていただいたところに話を戻しますが、私はそのクライアントに何の躊躇もなく「よろしければこの報告書を書いた方を紹介してください」とお願いし、快諾していただけました。私としては最近多忙で、インタビュアーのリソースを増やしておかないと仕事が回らないという状況に陥りつつあったところなので大変助かります。その後、その方と直接面談させていただいたのですがやはり同門の後輩で、その意味でも私は安心して仕事を依頼できます。その方に現時点で多少の不足がある点は私の経験や知識でカバーできると思いますし、お互いに切磋琢磨することもできるかと期待しています。





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