定年延長で中国はどうなるのか
先日、中国で定年が延長されることが発表されました。
事前情報がなく、拙速に決まった印象がある今回の定年延長ですが、中国ではこれまでにも定年引き上げの議論は散々なされていて、そのたびに強い反対のために頓挫していました。
今回、多少の無理をしてでも(パブリックコメントによる意見募集を行わなかった)さっさと定年引き上げを決めてしまったのは、もうそれだけ高齢化にともなう社会保障財源の確保や労働人口の減少などの問題が「待ったなし」になっているからなのかな、と想像します。
今回のマガジンでは、この定年の引き上げについて考えたことを書きます。特に経済や社会保障制度に明るくもない素人の印象論の域を出ませんが、何かの参考にしていただければ幸いです。
運用がめっちゃ難しそう
このニュースが出てきた時に「段階的に定年年齢を引き上げ」というのがどういうことかわからず、調べてみたのですが、最初は意味がよくわかりませんでした。
てっきり企業ごとに定年年齢に幅を持たせるということなのかと思っていたのですが、そうではなく労働者の生まれ年によって定年年齢が違ってくるらしいということを、関連記事を何回か読んでようやく理解できました。
男性を例にとると、1964年より以前生まれはこれまでと同様60歳、1965年から1976年8月生まれまでは段階的に変動、1976年生まれ以降は63歳に設定されるということです。この時点でややこしい。
で、「段階的に変動」の部分ですが、「生まれた月が4ヶ月後ろになるごとに、定年が1ヶ月伸びる」というものだそうです。たとえば1965年1月生まれの人は定年が60歳と1ヶ月ですが、1965年5月生まれの人は60歳と2ヶ月になる、といった具合に徐々に加算されていくようです(この説明で伝わるでしょうか……?)
こういう計算方法が、男性の他にも女性についても存在しており、しかも女性はさらに管理職と非管理職で2種類に分かれます。
ただ僕に理解力がないせいかもしれませんが、めっちゃややこしくね? と思ってしまいました。現場でこれを運用する企業の人事の人とかは大変そうだし、労働者の側から見ても自分はどうなるのかわからなかった人もいるんじゃないでしょうか。
まあ、システムを理解していれば、ある労働者がどこに該当するのかはすぐにわかるし、機械的に当てはめていくだけなのかもしれませんが、中国ではこうした法律法規の改正が一律に適用されるとも限らず、地域性や属人性が強い運用がされることもままあるので、過渡期には混乱が起こりそうだなーと思いました。
ともかく、適切に運用されることを願います。
年金の期間延長のほうが影響が大きそう
定年延長と同時に、養老金(年金)の納付期間もしれっと変わったのですが、そっちのほうが実は大きなことなんじゃないかとも思いました。
これまで最低納付期間(年金を受け取るために必要な年数)が15年だったのが、2039年を目標に20年にまで伸びるということです。納付期間が5年伸びるというのは、結構なインパクトなんじゃないでしょうか。
中国の労働市場は年齢による強い淘汰圧が働いていて、これまでは35歳が一つの基準となっていました。
中国の人は35歳になると独立を志したり、雇われを脱却しようとするのですが(同時に企業のほうも雇ってくれなくなるというのもありますが)、その基準がこの年金の納付期間にも影響されているのだとすれば、今後はその基準が40歳に移っていくのかもしれません。みんな年金はもらいたいですからねえ。
「中国速度」は鈍化するかも
で、そんなふうにみんなが長く働くようになれば、これまで中国の強みと称えられることの多かった意思決定のスピード感や、社会をドラスティックに変化させるような新しい技術の普及の速さなどは、少しずつ鈍っていくのかもしれません。
これまでの中国のイケイケな雰囲気は、労働力人口の平均年齢の若さに代表されるような、国としての「若々しさ」に支えられてきた部分があると思っているのですが、社会を中心となって動かす人の年齢が上がるにつれて、それが徐々に失われていくのではないかと思います。
日本も経験したような社会の「老い」が、中国でも進行していくでしょう。
すでに個人的な肌感では、以前ほどの「若々しさ」はすでになく、ちょっとずつ世の中が変化を嫌い始めているのでは、と感じることがあります。
まあ、これはどこの国でも避けられないことではありますが、中国もその段階に入っていくのだな、としみじみ思います。
子育て、どうすんの?
個人的には予想されるもっとも大きな問題として、子育てのハードルが上がり、ただでさえ日本を追い越して進んでいる少子化がさらにシャレにならないことになるのでは、というのがあります。
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