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中国企業に10年近く騙されていた話

大仰なタイトルですが、そんなたいそうな話でもないのであしからず。

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中国で売られている衛生用品のブランドに、「Walch」というものがあります。

Walch香港の公式HPより

主なプロダクトにはハンドソープのほか、洗濯用洗剤や消毒液などがあります。中国のスーパーでは衛生用品の中心的なラインナップとして陳列されており、置いていない店はまずないと言い切れます。日本で言えば花王とかライオンとかそのレベルのメジャー感です。

近所のMETRO(ドイツ資本の倉庫型スーパー)にて撮影

ちなみに最近では日本進出も果たしているようです。「ウォルシュマン」なんていうかわいいキャラクターまで出てきています。

さて、僕は近々までこのWalchを、中国ではない、どこか外国のブランドだと思っていました。

中国のメーカーのものとしてはあまり見かけないスッキリとしたロゴやシンプルで派手さのない外観、そして何より「Walch」という響きに、「よく知らないけど、どこかヨーロッパとかの国のメーカーなんだろう」ということを信じて疑わなかったのです。

しかし先日、ふとしたきっかけで調べてみると、このWalchはれっきとした中国メーカーでした。

Walchは2000年に設立された、香港と中国で最大規模の消耗品メーカーの一つです。設立以来、Walchは高品質なパーソナルケア製品および家庭用品の提供に専念してきました。広州の工場は、世界基準の品質保証システムを備えています。

Walch was founded in 2000, one of the largest fast-moving consumer goods companies in Hong Kong and China. Since its establishment, Walch has been committed to providing high-quality personal care and household products. Plants in Guangzhou are built with a global standard quality assurance system.

Walch香港の公式HPより、翻訳はChatGPT

ウィリスグループ(威露士、Walch)は、中華人民共和国の企業「威莱(广州)日用品有限公司」の製品ブランドである。

Wikipediaより

これを知った瞬間、中国に来てからの約10年間、ずっと騙されてた! とショックを受けるとともに、感心する部分もありました。

というのも、国内のものに対する信用があまり高くない中国では、国内のメーカーが海外ブランドのフリをした商品やブランディングを展開することは珍しくないのですが、それは大体一目で見破れるようなものであることが多いからです。

有名なものには、「日本の著名デザイナー」三宅順也氏を店内に掲げていたメイソウが挙げられるでしょう。

実態は純然たる中国国内メーカーであるにも関わらず、パッケージに怪しい日本語を盛り込み、「日本品質」の「日本プロダクト」を販売し、世界進出も果たすなど急成長しました(その後SNSを中心に日本ヘイトが高まるにつれこのことが問題になり、そっとカタカナのロゴを外すなどしていましたが)。

しかしWalchに関しては、中国メーカーからはどうしても滲み出てしまう「中国っぽさ」を抑え、見事にそれっぽく擬態しています。少なくとも僕が10年近く暮らしてきて気づかない程度には、その擬態はうまくいっています。

Walchが展開を始めたのは2000年からだそうです。当時の中国メーカーなら、どれだけ欧米っぽいものを作ろうとしても中国的土臭さを隠すのは難しかったと思われますが、Walchは20年以上前からそれを成功させていたということになります(ロゴやデザインが当時から同じかどうかはわかりませんが)。これはもう、むしろ驚嘆に値するといえるでしょう。

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ちなみに、同じく「中国メーカーなのに海外っぽいブランディング」を成功させた例として、家具メーカーの「DeRucci」があります。

同メーカーは中国でもものづくりの都市として知られる東莞市(僕の居住地でもあります)に居を構える、「慕思」というれっきとした中国の地場メーカーです。

しかし、上の画像の何やら巨匠デザイナーっぽい雰囲気を湛えた初老白人男性の広告により、同メーカーは海外のデザイナーズ・ハイブランドっぽいイメージを獲得することに成功しました。一時期までは至るところにこの男性の広告が掲げられていたので、中国に来あことがあれば見かけた人も多いでしょう。

この広告は中国すら飛び越え、世界のいろいろな国にまで進出していたようなのですが、しかしてその正体は中国に来ていたそのへんの英語教師のおっさんに日当を出して撮影したものだそうです。

この英語教師だったはずのおっさんは、自分の写真が中国どころか世界中に拡散していくのをどんな気持ちで見つめていたのでしょうか。やはり気まずかったでしょうか。それとも「こんなことになるならもっと金くれよ」と思っていたのでしょうか。いまは知る由もありません。

ちなみにこの広告も中国国内で虚偽性を指摘され、いまはあまり見かけなくなりました。他の国では残ってるのかな。いつかこのおっさんの看板を写真に残すための旅に出たいです。

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とまあ、「中国発なのに海外っぽいブランディングのメーカー」についていろいろ書いてみました。

日本にもこういうのあるかなと思って思い出してみると、エドウィンとかウィルキンソンとか結構あります。舶来ものがありがたがられるのは世の常、といったところでしょうか。

今日はそんなゆるめの話題でした。ではまた。

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