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落としたスマホは戻ってきたが、中国で生きていく自信は少しなくなった話
先日、ライドシェアの車内にスマホを忘れてしまいました。で、30時間ほどを経て手元に戻ってきました。
ここで一発「失くしものが戻ってくるなんて、中国の治安もずいぶん向上したものだ」という話でも書いて中国のイメージ向上に貢献し、日中友好的な文脈の人々から小銭でももらおうかとも考えたのですが……ただ、戻ってくるまでの過程を顧みると、とてもじゃないけどそういう気分になれません。今日はそのことを書いてみます。
「戻ってきたのに文句言うなよ」「そもそも忘れるのが悪いんだろ」というツッコミを置き去りにして、以下お送りします。
発端:スマホがない
嫁と子どもと一緒に外出していたある日の午前中。
所用を終えたあと、ライドシェアを利用して家に戻り、10分ほどが経った時のこと。「あれ? 僕のスマホがないぞ」と気づきました。嫁に鳴らしてもらうも、家の中に反応はなし。
嫌な予感がしつつ、パソコンからスマホの位置情報を確認すると、5kmほど離れたところにたどり着いているのがわかりました。はい、車内に忘れたことが確定です。あーあ、やらかした。
嫁にも呆れられながら、まずスマホの画面に「XXXX -XXXX(嫁の電話番号)に電話をください」というメッセージを表示させるようにしたうえで、スマホから呼び出し音を流すように遠隔で操作しました(いまは便利な機能があるもんですね)。運転手が気付けば、嫁のスマホに電話が来るはずです。
ほどなくして、嫁のスマホに電話がかかってきました。ちょうど手が離せなかった嫁の代わりに電話を受けると、先ほど乗ったライドシェアの運転手のくぐもった声が聞こえました。
運転手は「さっきのお客さんでしょ? いま別のお客さんを乗せてるから、手が空いたら届けてあげるよ。お昼ぐらいかな」と言いました。それはどうも、非常感谢、と言って電話を切りました。
よかったよかった、さすが中国は世界一安全な国だと外交官が自慢するだけはあるでぇ……と安心していたのですが、大変なのはここからでした。
「200元送れ、さもなくば」
というのも、まず12時になっても、午後1時になっても2時になっても3時になっても、何の連絡もないのです。そして4時になり、さすがに「お昼」とは言えない時間帯になりました。まあ他のお客を乗せてて忙しいのかなと思いつつ、せめていつになりそうか聞こうと、嫁のスマホを借りて電話をかけようと思いました。
しかし、そこでスマホのロックを解除した嫁が、僕にスマホを貸す前に「あれ? その運転手からWeChatのフレンド申請が来てるよ」と言いました。どうやら電話番号をもとに申請してきたようです。
申請を受け入れると、連続でメッセージが入ってきました。その内容は、以下のようなものでした。
・今日は忙しくてスマホを渡しに行っている時間がないかもしれない
・でもライドシェアの会社で決められたサービス費200元(≒4000円)をWeChatで払ってくれれば、届けに行けるかもしれない(時間がないのでは?)
・もしそれが無理なら、〇〇派出所(僕の家から1時間ほどかかる)にスマホを預けようと思う
すぐ嫁が不審に思ってライドシェアのサービスの規約を調べましたが、紛失時のサービス費200元などという規定はどこにもありません。明らかに運転手が自分で決めた金額です。
要はこの運転手、「届けに来てほしければ200元払え、さもなくば遠くの派出所に自分で取りに行かせるぞ」とスマホを人質に言っているわけです。
タダで届けてもらえるとは思っていなかったし、届けてくれるのなら自分からいくばくかの謝礼は渡すつもりでしたが、こういう話になるとは……困惑しながらも、スマホを握っている嫁に送金するよう頼むと、ここで待ったがかかります。
嫁曰く、「相手がこういうことを言い出す人だから、ここでお金を渡したからといってスマホが帰ってくるとは限らない。お金もスマホも持ち逃げされて終わりかも。お金は渡さず、ライドシェアの運営会社に連絡して処理してもらいましょう」とのこと。まあそうかもしれません。
そしてライドシェア会社のカスタマーセンターに電話をかけて、状況を説明。担当者の答えは「わかりました、運転手に連絡してすぐに折り返します」というものでした。この時点で僕は嫌な予感がしていました。
そして嫌な予感通り、5時になっても、6時になってもカスタマーセンターからの折り返しはありません。
何度もかけて催促しようとするも、毎回違う担当者が出て同じ説明をさせられた挙句、「状況を確認します」からの「運転手と連絡がつきません」と言われて終わり。イライラだけが募ります。
しかもその間、例の運転手からは200元の催促のメッセージが定期的に届いています。つまりこいつは普通にヒマなのであり、連絡がつかないはずがありません。運転手が故意に連絡を無視しているか、カスタマーセンターがサボっているかのどちらかなのは疑いようがありません。
結局、その日はそんな無駄なやり取りをしているうちにすっかり陽が落ちてしまいました。子どもの世話も仕事もあるし、このことばかりに時間を割いてもいられません。
結局その日はスマホを運転手のオッサンに握られたまま、夜を明かすことになってしまいました。心配で何度も夜中に起きて、GPSを確認するくらいには不安でした。本当に帰ってくるんだろうかと気を揉み続けながら、その日が終わりました。
結末:そこまで行く羽目になるとは
そして翌日。
カスタマーセンターも当てにならないと判断した僕ら夫婦は、モヤモヤはするもののこれ以上時間を無駄にできないので、200元を渡してさっさとスマホを取り返そうという方針に切り替えることにしました。ずっと向こうにスマホを握られているのも嫌だし。
ただ、そのまま200元を渡すとやはり持ち逃げの可能性があるので、まず100元を渡すから届けにきて、残りの100元はスマホを返してくれてから渡すと伝えましょう、と嫁の提案。中国の工場などでは、出稼ぎ労働者のバックレを防ぐために年末のボーナスを半分渡し、年明けに地元から帰ってきたらもう半分を渡すという形をとっているところがあるのですが、その応用です。
そしてその提案を運転手にメッセージで送るのですが、運転手は取り合いません。いいからさっさと200元を渡せ、ときます。こう着状態がしばらく続きます。
かと思うと突然、運転手から「もういい。この派出所に預けたから自分で取りに行ってくれ」といって、一方的にどこかの派出所の写真が送られてきました。
その場所を地図アプリで調べると、運転手が最初に提案してきた派出所よりもさらに遠い、車で1時間半ほどかかる隣の市の派出所でした。どうやら運転手は交渉は無理と見て、嫌がらせに振り切ることにしたようです。……これが結末かよ。
目眩がしながらも、僕はGPSで確かにその場所にスマホがあることを確認し、嫁に呼んでもらったタクシーに乗り込んで、隣市の派出所に向かいました。
そしてスマホを取り返し、現地に10分も滞在することなく、今度は自分でタクシーを呼んですぐにとって返しました。結局、往復のタクシー代180元程度と、約3時間の時間を無駄にしました。時間のロスがあるぶん、ただ200元を払うより大きなダメージを負うことになってしまいました。
ちなみにスマホを預かっていてくれた派出所の人は中国の警察らしからぬ対応の良さで、丁寧に相手をしてくれたばかりか、スマホの充電まで済ませてくれていました。2時間ずっとクソみたいな展開だけど、スタッフロール後のおまけだけは最高の映画を見たような気分になりました。
戻ってきたスマホとなくなった自信
と、長々と書きましたが、これが事件の顛末です。
この件を経て、僕はスマホが戻って安堵するとともに、中国でこれから生きていく自信がちょっとなくなったんですね。
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