国際協力の落とし穴 モンテネグロのケースからの考察
先日このような記事を目にしました。
https://www.afpbb.com/articles/-/3349267
バルカン半島のモンテネグロという小国で中国支援の高速道路建設案件が、全体の半分しか完成していない状態ですでに約10億ドルの融資資金を費やしてしまった、という話です。残る半分を完成させるためには更に10億ドルの融資が必要となり、現在モンテネグロは多大なる債務を抱えることになりそうだ、ということです。
通常海外支援(日本では国際協力と呼ばれる)には融資と無償支援があります。無償はその名の通り返済不要の支援金であり、融資は貸付になります。日本であれば、ODAという国際協力の枠組みのもと、無償及び円借款という二つの支援方法があり、その選定は支援国の財力、支援額、案件内容に応じて決まります。その選定基準は主に対象国のGDP(国民総生産)であり、そのGDPが一定以上の国は同じ内容の支援であっても円借款という形を取ることになります。逆を言えば一定のGDPに達していない国は円借款の対象にはなりません。その分無償で支援を受けることが出来ますが、当然ながら予算規模は少なく、その分大掛かりな案件は実施できない事になります。
これは海外支援に置いて日本が重視し、慎重に吟味している点です。それもそのはず、円借款は要は融資なので、貸したお金をいずれは支援対象国から返済してもらう必要があるからです。当然、日本では支援した国が返せる見込みのある金額を想定し案件を選定しています。なので、中には相手国が要請しつつも実施できていない案件、一度議題には上がったものの、その後落選となった案件も沢山あります。
そして日本のODAで重要視しているのが持続可能な支援です。道路建設にしても建物建設にしても、作ったらそれで終わりではありません。時間が経てば整備していかないといずれ使えなくなります。地域によっては天候などが厳しく、日本よりも早く老朽化してしまう場所もあります。建設する時は良くても、維持管理までを相手国の責任者がきちんと管理できなければ意味がないのです。
そのため日本がODAを実施する際は、案件にもよりますが基本相手国の管理責任会社を選定し、日本からは総監督としての技術者が入り、管轄の会社と共に建設を行います。そうすることで、建設後日本の技術者が去ったとしても、建設から経緯を把握している現地の管理会社が維持管理を継続して行えるのです。
ところが、中国の支援の場合はというとどうやら建設に関わる作業員全員を中国から派遣しているようなのです。そうなると、現地の人で作業の過程を把握している人が誰もいないことになります。建設だけは中国側が全部実施してくれるので相手国としては楽ですが、維持管理の段になって困る事態も発生してくるのです。それにも関わらす、日本やアメリカ、ヨーロッパが実施する開発支援(国際協力)の案件に比べ中国の支援は見積もりが安いため、被援助国(援助をされる側の国)にとってはやはり魅力的なのでしょう。開発支援の分野でも中国の進出はここ10年ほどでかなり広がっているようです。
とはいえ、折角融資を受けて道路を建設したにも関わらず、現地の作業員が雇われることもないため雇用創出には繋がらず、更には作業の過程を把握している技術者がいないため維持管理に支障を来す、そして極めつけは実際にはかなりの高額な融資案件となってしまう、となれば本末転倒としか言いようがないでしょう。
記事では費用の一部が汚職に使われた可能性が指摘されていますが、実のところ途上国での支援には常に汚職がつきまとっています。日本は支援相手国の汚職を防ぐために公開入札などあらゆる対策は取っていますが、それでも受注側が勝手に横領、汚職などに関わってしまうこともあります。特に独裁政権だったりすると、政府のトップが自ら関わっていたりするため、防ぐことが中々難しい場合もあります。また、多くの途上国では全てお金が解決するという風潮があるため、現地の手続きを行う際に、また期限という概念があまりない途上国において予定通り作業をすすめるためにと、つい支援側の作業実施関係会社が賄賂を渡してしまうこともあります。勿論これは発覚すれば日本では処罰の対象になるため、暫く受注ができなくなったりします。しかしながら、それを理解していても現地での作業が進まずについ賄賂を渡してしまう業者も出てきてしまうのです。
そんな事なら海外支援・国際協力なんてしなければいい、という方もいらっしゃるでしょう。ですが、支援といっても実際は日系企業に対する支援の意味合いも含まれているのが日本の国際協力です。例えば道路建設にしてみれば、日系企業が工場を作る可能性のある国が選ばれていますし、建物建設であれば大型開発の機会が少なくなった日本で職がない建設会社関係者への仕事を生み出すべく支援国での建設業に日系企業の関係者を派遣しているという側面もあります。医療機材や車両機材を支援する案件などでは現地会社がある日系の会社の製品を支援するようにしています。そうする事で、日本の製品を試してもらい、将来の市場開拓につなげようという意味合いがあるからです。
日本が海外支援を行う場合、こういった側面を考慮しつつ、かつなるべく支援国の自立に繋がるよう、そして将来日本の企業の顧客となってもらうような支援内容を考えつつ、なるべく支援国の負担が大きくならないように案件を作り上げます。他方で、偏見的な言い方になり恐縮ですが、どうも中国の支援は自国の利益が最優先のような支援内容である事が多く、また大雑把な案件形成なのか完成したものが雑ですぐ欠損破損する、上記の記事にあるようなコストが予想を上回るなどの問題が生じる案件も少なくないようです。今後は支援される側にもきちんとした見極める力が求められる時代なのかもしれません。