双極性障害 ~その原因から治療まで~
双極性障害について(双極性感情障害/躁うつ病)
この記事の目的
・双極性感情の概要について理解する
・うつ病と比較しその差を理解する
概要
かつては躁うつ病として呼ばれていた病で、現在は主に双極性障害と呼称される。診断書等には双極性感情障害として記載される。
気分が極端に高揚する「躁状態」と、極端に落ち込む「うつ状態」が周期的に繰り返される病気で、3つのタイプに分別される。
・双極Ⅰ型障害
・双極Ⅱ型障害
・気分循環性障害
これらは症状の区分で解説する。
症状
まず躁状態について概説する。
躁状態は主に気分が高揚し活動的になるものである。また、爽快感や誇大妄想(自分が偉いと感じる等)を併せることも多く、睡眠時間を極端に削る、些細なことで他者と揉めたり性に奔放になる、金遣いが荒くなる等生活に大きく支障をきたす言動が見られる場合がある。
また、これらを少し緩和した状態として現れる症状を軽躁という。
次に抑うつ状態について概説する。
抑うつ状態は気分の落ち込み、意欲の低下、興味や喜びの喪失、食欲不振または過食、不眠または過眠、疲労感、集中力低下、自殺念慮等が挙げられる。
抑うつ状態にのみ着目されがちで、軽躁や躁状態を見落とされることがあるため、診断やアセスメントにおいてしっかりと注意することが必要である。
他の病状についても概説する。
混合状態:躁病相とうつ病相の症状が同時に現れること。気分の高揚とともに抑うつ的な気分や思考が混在したり、活動性の亢進とともに気分の落ち込みがみられたりする。
急速交代型:1年間に4回以上、躁病相とうつ病相が入れ替わる場合を指す。
季節型:特定の季節に症状が現れやすい場合を指し、冬季にうつ病相が現れやすいなどが挙げられる。季節性のうつ病に近い形態である。
分類
・双極I型障害
躁状態が極めて強く、時には入院が必要になるほどの症状が現れる。うつ状態も現れるが、躁状態の方が目立つ。診断時には本人の自覚で躁を伝えることもあるが、エピソードを聞くと躁状態について詳しく話される場合もあるため、本人の無自覚な部分に向けても注意を向ける必要がある。
・双極II型障害
躁状態は比較的軽い「軽躁状態」にとどまり、うつ状態の方が深刻で長引くことが多い。双極Ⅰ型と違い、躁状態を気分が良い、等と自己解釈し医師に相談せず、うつ病と診断されるケースが少なくない。そのため、診断時には普段の様子をしっかり観察し、診断に役立てる工夫が必要である。
・気分循環性障害
軽躁状態とうつ状態が繰り返されるが、それぞれの症状が双極I型・II型ほど重症ではない。
原因
多くの精神疾患と同様に明確な原因の調査はできていない。しかし以下のような理由から発症するのではないかとされている。下記以外にも、出産時の合併症や栄養状態等が発症に関与している可能性が指摘されている。
遺伝的要因ー家族に双極性障害の人がいると発症リスクが高い。しかし、遺伝子だけで発症するわけではなく、他の要因も重なって発症すると考えられている。
脳内の神経伝達物質の異常ーセロトニン・ドーパミン・ノルアドレナリン等、脳の特定部位の構造や機能に変化
環境的要因
ストレスー人間関係・仕事・生活環境の変化、幼少期の虐待やトラウマ体験、家庭環境の不和、仕事や人間関係のストレス
生活リズムの乱れー不規則な睡眠や食事、昼夜逆転の生活
大麻などの薬物使用
診断
双極性障害の診断は、精神科医・心療内科医による臨床評価を中心に行われ、単なる気分の浮き沈みではなく、躁状態と抑うつ状態が一定のパターンで繰り返されるかどうかが重要な診断基準となる。躁状態のエピソードがあるかどうかが決め手となり、(うつ病との違い)本人が軽躁状態を自覚していないことも多いため、家族の証言が重要で、診断までに時間がかかることがある(最初はうつ病と誤診されやすい)ことに注意が必要である。
診断基準(DSM-5)
アメリカ精神医学会の診断基準(DSM-5)に基づき、以下のような基準で診断される。
1. 双極I型障害の診断基準
躁状態が少なくとも1回以上存在すること(うつ状態の有無は問わない)
躁状態の特徴(1週間以上続く、または入院が必要なレベル)
異常なほど高揚した気分、または過度な刺激性
活動の増加、エネルギーの異常な高まり
以下の症状のうち3つ以上(気分が刺激的な場合は4つ以上)が当てはまる
過剰な自信・誇大妄想
睡眠欲求の減少(ほとんど眠らなくても平気)
多弁(話し続ける、止まらない)
思考の奔流(考えが次々に浮かび、まとまりがない)
注意散漫(些細な刺激に反応しやすい)
活動量の増加(仕事・社交・性的行動など)
衝動的でリスクの高い行動(浪費・無謀な運転・ギャンブルなど)
これらの症状が、社会的・職業的な機能に深刻な支障をもたらす
2. 双極II型障害の診断基準
軽躁状態(躁状態より軽い)が少なくとも1回以上
うつ状態が少なくとも1回以上
軽躁状態は 4日以上続く が、社会的な機能に極端な支障は及ぼさない
うつ状態は 2週間以上 続く
3. 気分循環性障害(軽度の双極性障害)
軽躁状態と軽度の抑うつ状態が2年以上(小児・青年では1年以上)続く
典型的な双極I型・II型ほど症状は重くない
治療
薬物療法
・気分安定薬(リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン)
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≪気分安定薬のポイント≫
・躁・うつの両方に効く → リチウム
・躁状態が激しい → バルプロ酸、カルバマゼピン
・うつ状態の再発を防ぎたい → ラモトリギン
抗精神病薬(クエチアピン、オランザピンなど)
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≪抗精神病薬のポイント≫
・躁・うつの両方に有効 → オランザピン、クエチアピン
・軽躁の維持療法 → アリピプラゾール
・双極性うつに特化 → ルラシドン
抗うつ薬(必要に応じて使用されるが、躁転のリスクがあるため慎重に)
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≪抗うつ薬を使う際のポイント≫
・双極性障害では抗うつ薬単独はNG
・必ず気分安定薬と一緒に使用すること
その他の治療薬
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・薬物選択のポイント
躁エピソード(興奮が強い)
・第一選択 → 気分安定薬(リチウム or バルプロ酸)
・補助 → 非定型抗精神病薬(オランザピン、クエチアピン)
うつエピソード(抑うつが強い)
・第一選択 → ラモトリギン or ルラシドン
・補助 → クエチアピン(低用量)、抗うつ薬(慎重に)
維持療法(再発予防)
・リチウム or ラモトリギン(第一選択)
・軽躁が続く場合はアリピプラゾールを追加
基本は気分安定薬(リチウム、バルプロ酸、ラモトリギン)を使用し、躁が強いときは非定型抗精神病薬を追加(オランザピン、クエチアピン)、うつにはラモトリギン、ルラシドンが有効(抗うつ薬は慎重に)で、維持療法が重要であり、薬をやめると再発しやすいため注意が必要である。
心理療法・カウンセリング
認知行動療法(CBT):思考パターンを調整し、ストレスへの対処法を学ぶ
家族療法:家族が病気を理解し、適切なサポートを提供できるようにする
生活習慣の改善
規則正しい睡眠と生活リズムを保つ
過度なストレスを避ける
運動やバランスの取れた食事を心がける