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小説版『アヤカシバナシ』私が墓参りに行けなくなった訳

私は人じゃないものが見えると言いきれる程の能力者ではない。

だが、基本的に耳鳴りや頭痛、吐き気による悪寒は、レーダーのように使えるくらいの力はあると思う。


時は数年前の夏、今年も実家へ出向き、両親と親族の墓参りに向かう。

実家からは車でゆっくりと2時間~3時間走るだろうか、意識して時間を見ていなかったのだが、早朝に出かけて家に戻るのはいつも夕方だったからそれくらいの道のりだと思う。


舗装された道路ではあるが、明らかに山へと向かう道。

徐々に細くなる舗装道路の両脇は木々が鬱蒼と茂ってきて、終いには薄暗い木のトンネルのようになってくる。


とは言え私には気持ち悪さはなく、ジブリの世界観でむしろ絵の勉強になるからスマホで撮影するくらいのモノだった。


ドンドン山を登っているのが角度とエンジンの唸り具合でわかる。

パ!っと森が『どうぞ!』と言っているかのように開けた場所に出た。


山のほぼ頂上に位置する墓地は、一本道を上がり切ると舗装だった道がスッパリと切断されて、土のままで出来た駐車場だった。

言い換えれば手つかずの自然の駐車場だ。

ワゴン車の助手席から降りるとモフッとやわからな感触が足の裏に伝わってくる。

言い忘れていたが私が助手席なのは、何かと講釈付けてしゃべりたがる父親を操縦するのが私は上手いと言う事で座らせられている、いわゆる父親担当。


母親はお足が悪いので降りるのを手伝う、全員が降りて荷物を持ち、車のドアを閉めると、一気に暑さを感じるのだった。

それもそのはず、ただでさえ暑いのに山の高いところに来たのだ、平地の何倍かの暑さはあるだろう。

恐ろしいと言っても過言ではない数のアブが飛んでいる。

刺さないが噛むと聞く、噛まれるととても腫れて痛いそうで、虫よけスプレーを自分に塗布。


親族の眠るお墓に母の手を引きながら向かうと、神主である父親が準備を始める、簡易的な神棚を作り、供え物をする。

お墓を磨き上げ、お神酒を差し上げてお線香を焚く。

準備が出来たので父親を前に、その後ろに私と母親と親戚が簡易椅子に座る。


それを見た周囲から依頼されるほどガチでマジな父親の祈りが始まる。

お経とは違う神様信仰のものだが、宗派は違えどお願いしたいと言われるそうだ。

それもそのはず、父親は本物の神主なのだから。

言っちゃ悪いけど私としては少し気恥ずかしいのだけれど。


お盆だと言うのにタイミングのせいだろうか、私たち以外は誰も居ない墓地、そこに父親の祈り声が響き渡る。独特の発声によるものだと思うのだが、やたらとその声は通るのです。

目を閉じて私たちも心を込めて故人を偲ぶ・・・・


ジャッジャッジャッジャッジャッジャッ。。。


墓地には砂利が敷き詰められている、そこを歩く音がした。

目を開けると父親の拝む姿が前にあるので父親じゃない。

『んん????』

周囲を確認するが誰も居ない・・・

また目を閉じると・・・・


ジャッジャッジャッジャッジャッジャッ。。。


右に座る母親が私を見る、私も母親を見る。

指をくるくる回して、誰かが歩いているというジェスチャーをした。

それが伝わったらしく母親は鳥の影絵を作る様な手つきで、くちばしがパクパクするように動かして目をつむった。

私は眼をつむれと言う合図と理解し、眼を閉じた。


ジャッジャッジャッジャッジャッジャッ。。。


ジャッジャッジャッジャッジャッジャッ。。。


ジャッジャッジャッジャッジャッジャッ。。。


ジャジャジャジャジャ!!!!!!!!!!!!!!!


歩き回り、周囲をぐるぐる回ったかと思うと、走り出して更に何周か回った。


父親の祈りが終わると、足音が止んだ。

やはり周囲を確認するが誰も居ない。

その時、急激に私の体調が崩れた。

声が聞こえない程の耳鳴りと眩暈、更に猛烈な吐き気が。


神主である父親になんとかしてくれと頼むと、『お祓いはやってないから無理だ』と言い放った。

おい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

私はあまりの調子悪さに『神主だろ!なんとかして!』と叫ぶ。

もう立っていられない程の寒気と震えまで来てしまい、アレだけ暑かったはずなのに寒くてどうしようもなくなった。


目に入ったお神酒を口に含んでうがいを何度かして、手を洗って肩に塩を振りかけ、背中を母親に叩いてもらった。


何発か叩いてもらうと、人様の前でやったらドン引きされるような、長くて大きなゲップが出た。

ゲップと言うよりはゲップのような音が長く出たと言うべきか、それは野犬とかの唸り声にも似ていた。


グルルルルルウウウウウウウウウウウウウウウァアアアッ!


それと同時に何も食べていなかったので胃液をビシャ!っと吐いた。


ウソのように身体が軽くなり、そそくさと車に乗り込んだ。

私は入られたと思ったからだ。

今はお神酒の効果があるかもしれないが、切れたらまた来るかも、そう思うともう外にはいられなかったのだ。

母親もただ事ではない事態を察し、早くここを出ないとダメだと言い、帰るよう父親を促して山を下りた。


車内で母親から『あんたはもう危ないから来るんじゃない』と言われ、それ以来私の方のお墓参りは実家で故人のお写真に手を合わせ、現場には志を持って行ってもらっている。

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