小説版『アヤカシバナシ』儀式
『なぁなぁ、今日の放課後、山の上のお化け屋敷行かね?』
鼻の穴を膨らませて話しかけてきたクラスの男子。
その声の大きさに反応をした男女数人で行く事になった。
男子が行くから女子も来るのか、女子が行くから男子も行くのか、怖いところへ行くと言うよりそう言うお楽しみ感覚があったのは確かだ。
そのお化け屋敷とは、まずは公園を目指さなくてはならない。
学校から歩いて1kmあるだろうか、そこにある大きな公園。
見上げると、正式には高い丘があり、どう見ても怪しい一軒家がポツリと建っている。
丘の上は草原で何もない。
その一軒家にまつわる噂は、一家惨殺後に父親が首つり自殺した、たまに灯りがついている、変な声がする等があった。
小学校高学年とは言え、流石に一人で行ける雰囲気ではない。
放課後、記憶では男女合わせて5人だったと思います。
ゾロゾロとランドセルを背負ってお化け屋敷へと向かった。
公園からは急な上り坂、ビー玉を走らせて遊ぶ昔のおもちゃのような、細いギザギザ道を右へ左へと昇るのだった。
登り切って膝に手を当ててうな垂れたその顔を一息ついて上げると、目の前にはその家があった。
明らかに空気が違う・・・と言う感じがした。
感じがしただけで実際はわからない、お化け屋敷と言う与えられた前情報がそう感じさせているってのはあると思う・・・でも・・・・
記憶をぐーっと手繰り寄せると、嫌なオーラはあったと思う。
おかしな話だが、思い出そうとするとその家は今でも明確に描けるのだ、それほど脳裏に焼き付いて残っているのだからただモノじゃないのだろうか。
よし入ろう・・・
意を決した1人がドアノブに手を掛けて回して引く・・・
カチョン・・・キ・・・キシイイイイイイ
『開いた・・・』5人が声をあげた。
台風接近前だったので生ぬるい風が丁度良く通り過ぎた。
その家は全ての窓を木で打ち付けられているので、夏の夕方でも中は真っ暗闇だった。
玄関のドアが閉まらないよう、石を置いて開けたまま中に入った。
20cm~30cmほどの段差を靴ごと上がり、3歩ほど進むと右手に大きな部屋があった。
目に入ってきたのは天井からぶら下がっていた輪になった紐。
直ぐにこの家の自殺の話を思い出し、ゾッとした。
5人の中にはもう限界そうな子もいたが、ここで探索心も湧いてきたので私はもう一人と2階へ行く事に。
玄関左、5段目くらいから右に曲がり上へと真っ直ぐ伸びていた。
登りきると部屋は2つ。
奥から入ると、書斎だったらしく偉そうな革の椅子があった。
その前にある机の前から手を伸ばして、窓の方を見ている椅子をクルリと回すと、子供が座っていたのでギャ!っとなったが、子供ではなく幼稚園児くらいの大きさに感じるリアルな人形だった。
この時点で、当時から椅子に人形を座らせたままになっているはずがないと察することができれば恐怖で立ち去ったと思うのだが、子供の脳では
『人形置いて脅かそうとか思ったのかな、子供が』
『そしたら狂った父親に殺された?』
『悪戯のせい?』
『よほどお父さん驚いたのかな・・・』
そんな程度の思考しかないから、2人はもう1つの部屋に向かった。
ドアを開けると何もない部屋にマットレスだけがあるように見えた。
床に何かあるようだったので、窓の方へ向かった私は、この部屋だけ窓の打ち付けがされていない事に気が付き、立てかけてあっただけの大きな板をズラした。
部屋に夕焼けが差し込み、暗くて見えなかった全貌が明らかになった。
床に魔法陣の様なものが白いインクのようなもので書かれ、周囲にろうそくが立てられて溶けた形跡があり、その中央にはフランス人形が手足を釘で床に固定されて、寝せると眼を閉じる人形だと思うのですが、その両の眼球に釘が打ち込まれていました。
幽霊とかそういうものではなく、とっさに『殺される』と言う恐怖が体中を走り、もう一人の手を取って『行くよ!』と階段を駆け下りた。
その時右側の人形が座っていた部屋に人影を感じた。
誰か隠れてた?いあまさか・・・
そう言い聞かせて階段を下りきると、玄関のドアが閉まっていた。
え?石で閉まらなくしたよね?なんで?
そこには3人が居て『開かないんだよ!』と焦ってドアノブをガチャガチャと回している。
左に目をやると、ドアの郵便差しの下、通常はすりガラスのような場所が板で塞がれていたので、勢い付けて私が思い切り蹴った。
バァン!やり過ぎ!ってくらいの衝撃と音で板が吹っ飛んだ。
そのスペースを1人づつ通り抜けて無事脱出した。
ドアがなぜ閉まって、鍵までかかったのかはわからない。
風で思い切り閉まって鍵の部分がひしゃげてしまったのかもしれない。
ただ、帰りに振り向いた私には、
2階から誰かがじっと見ていたのを知っている。
私だけが知っている。
それが勝手にその家を住処にしている人間なのか幽霊なのかわからないが、確かに誰かがいた。
数年後にその街を訪れたが、丘の上にあの家はもう無かった。
無いとなると少し寂しいと言うか、思い出を失ったような、複雑な気持ちにもなる。
人間ってのは勝手なものですね。
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