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【小説】疾走!ラノベ?青崎有吾『地雷グリコ』

自分では選ばない本を読んでみる。

昨年の初めあたりから、意識的に「誰かに薦められた」「各所で話題になっている」ような、とかく自分では選ばないジャンル・作者の本を読むようにしている。

20代までは乱読で、今よりずっと本を買うことにお金を使っていたのだが、30を過ぎたあたりから、知っている作者・好みのジャンルばかり追うようになっていった。
理由は簡単で「読みやすい」からだ。
世界観・文体・表現・展開…行きつけのお店のように安定感があり、大きくハズす心配もない。
ある意味で、居心地がよい。

ただ、似たような世界にこもっていると料簡が広がっていかない。
踊り場のような時期、というのはいつか必ずやってくる。

勉強にしろ運動にしろ、何につけ私のような凡夫には筋力が必要で、似通った本ばかり読んでいると、読書をするための筋力は衰えていく。
その点、初めての作者・ジャンルの本を読むと、筋肉痛を起こすことも多いが、新鮮である。

というわけで、
どの書店でも玉座・平置き『地雷グリコ』


あらすじ

主人公は、ゲーム・賭け事にやたらと強い女子高生・射守矢真兎(いもりや・まと)。校内外の利権・金銭あらゆるものをめぐって、先輩・大人・他校生…様々な対戦相手と繰り広げられる頭脳バトル。
1ゲーム1話の全5篇で構成される短編集でもあり、序章から編まれる1つの物語にもなっている。

ものすごく文体が軽く、主人公の名前からしてラノベっぽい。(『ライトノベル』には明確な定義がないらしいが。)他の登場人物たちも佐分利錵子(さぶり・にえこ)雨季田絵空(うきた・えそら)と続き…おぉぉ西尾維新先生思い出すなぁ、という感じ。

各ゲームに関しては、小さな仕掛けと大きな仕掛けが散りばめられていて、とても楽しい。(私は理解が追いつかないので『地雷グリコ』や『自由律ジャンケン』は自力で紙に図解しながら追っていた。)
ゲームの複雑さを簡潔な文体でスマートに伝える、というのは凄い技術だと作者の努力や才能を感じる。


脳裏に浮かぶジャンプ漫画たち

読んでいると自然に、週刊少年ジャンプの『明稜帝 梧桐勢十郎』(かずはじめ先生)や『めだかボックス』(西尾維新×暁月あきら先生)などの超権力をもつ生徒会を中心とした学園マンガが浮かんでくる。
作者・青崎有吾先生が意図しているかはわからないが、ジャンプ漫画的だということはそれだけ「キャラが立っている」ということだと思う。
主人公からサブキャラ・敵キャラに至るまで、言動すべてがマンガっぽい。
中途半端だと鼻につくかもしれないが、ここまで振り切っているといっそ清々しい。

佐分利にとってのその笑みは、
殴りたくなるような憎らしさと、
キスしたくなるような魅力が同居していた。

『自由律ジャンケン』


漫画、アニメ、映画、ドラマ…
さくさくメディアミックスされるであろう。

タイトルも装丁も秀逸。


アンファン・テリブルよ、永遠に。

読了後も「いやーやっぱり自分では選ばない!」というのが素直な感想である。もっとドロっとしたものを好むので、学園モノ自体が好みでない。
(調べると『このミステリーがすごい!』受賞作を読んだのは、第4回『チーム・バチスタの栄光』(海堂尊著)以来、実に20年ぶりだった。)

けれど、不意の闖入者だからこそ何もかも新鮮に楽しめた。
大人が思っているよりずっと残酷・無邪気で頭がよく、憎らしくも愛らしく、手のつけられないアンファン・テリブル。
高校生なんて、こうでなくては。

まあでも…
魅力的だが、近くに居たら
やっぱり嫌かも。

【作品紹介】
『地雷グリコ』青崎有吾著(角川書店)


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