つまらない時間をなくす方法
この記事はBoard Game Design Advent Calendar 2023の20日目の記事として書かれました。
こんにちは。
Studio GGのShun(@nannann2002)です。
これまでに、「リトルタウンビルダーズ」や「はらぺこバハムート」、「ブラウニーズ」シリーズ等のゲームを作成しました。
※Studio GGが作ったボードゲームは以下のページよりご覧いただけます。
今年もボードゲームデザインアドベントカレンダーに記事を書かせていただくことにしました。
毎年、ゲームデザインに関する考えのアウトプットの機会とさせていただいています。(上杉さん(@dbs_curry)、毎年ありがとうございます)
これまでに、アドベントカレンダーでも以下のような「ディベロップメント」に着目した記事をいくつか書いてきました。
「つまらない」をなくすディベロップメントの記事は、ディベロップの大切さを、
「ボードゲームデザインチェックリスト」は、気にすべき項目についてリストアップを行いましたが、
実際に、「つまらないをどうやってなくしていくのか」の具体的な方法についてはあまり説明されていませんでした。
なので今回は、『つまらない時間をなくす方法』と題しまして、ゲームのプレイにおいて「つまらない」と感じる時間を減らすための具体的な方法を状況別に紹介していきたいと思います。
はじめに
どんなに「面白い瞬間」があるゲームでも、ゲーム中の「つまらない時間」が多いと、体験が悪くなります。
「つまらない時間」とは例えば、
退屈
めんどくさい
ゲームが長い
と感じるような時間です。
では、一体どういう時にこのように感じるのでしょうか?
「つまらない時間」のブレイクダウン
「つまらない時間」と一言で言っても、理由は様々であるため、どうやって対策すればいいか分からないと思います。
「つまらない時間」の原因を明確化することで、対策を行うことが可能になり、ゲームの「面白い時間の割合」を上げていくことができます。
実際にブレイクダウンし、対策をリストアップしたものが以下の図です。
この図を見ながら、「つまらないと感じる時間があるけど、いったい何がつまらないんだろう?」と振り返ってみてください。
そうすることで、自分の感じた「つまらなさ」が明確化され、どのような対策を行えばいいかが見えてくると思います。
以下では、ブレイクダウンされたそれぞれの問題毎に対策手法を紹介していきます。
1.「退屈な時間がある」ときの対策
ゲーム中にプレイヤーが「退屈だ」「暇だ」と感じる時間はできるだけなくしたいものです。
しかし、他のプレイヤーの手番や、セットアップやラウンド間処理などが長いと、「退屈だ」と感じることがあります。
特に「ダウンタイム(他のプレイヤーが手番を行っているときに発生する待ち時間)」は良く発生する問題なのでたびたび話題になりますね。
このような時に効果的な対策をいくつか紹介します。
1-1.他のプレイヤーの手番が長い
1-1-1.同時にできないか考える
もっとも直接的な解決策は、全てのプレイヤーが同時に行動を行うようなルールにすることです。各々のプレイヤーの行動が他のプレイヤーの行動に影響されないようなゲームであれば、導入できる可能性があります。
また、フェイズの構成を工夫することで、同時に実行できる部分だけ同時に実行してしまうという方法もあります。
Studio GGの作品ですと、『開拓王』や『マイトロッコタウン』では、早取り要素のある「建築」アクション以外を同時に実行することにより、ダウンタイムを減らすようにしています。
1-1-2.選択肢を減らす
手番で選択可能な選択肢が多すぎるとプレイヤーが「分析麻痺」に陥ってしまい、手番で悩む時間が長くなってしまいます。
プレイヤーが選択可能な選択肢は3~4個くらいにしておくと、このようなことは発生しづらくなるでしょう。
1-1-3.手番を分割する
多くのリソースをさまざまなアクションに振り分けて使用するようなゲームを考えている場合、それらの行動を一手番に行うことができると、時間がかかりがちです。
この場合、手番を分割して、一つの行動ごとに次のプレイヤーに手番を回してしまうことで、疑似的に解決できます。
『テラフォーミングマーズ』などがいい例です。このゲームでは、特にインタラクションをもたらさないようなカードプレイでも手番を回すことで待ち時間を分割し、体感のダウンタイムを軽減しています。
1-1-4.手番でないときに考えることを増やす
これはダウンタイムそのものを解決するのではなく、長いダウンタイムが問題にならないようなゲームにする方法です。
特に分かりやすいのが箱庭パズルを含んだゲームです。他のプレイヤーが手番を行っている間にも、自分の箱庭をどのように発展させていくかの計画を立てることができるため、ダウンタイムがあまり気になりません。
特に、『オーディンの祝祭』というゲームは、獲得したタイルをラウンドの終了時までどこに配置するか決定する必要がないため、タイルをどこに配置するのかを他のプレイヤーが手番を行っている間に考えることができます。
これにより、長時間ゲームでもダウンタイムが気にならないゲームになっています。
1-2.セットアップや処理が長い
1-2-1.同時に手分けして処理できるようにする
セットアップやラウンド間処理などを一人のプレイヤーが行う構造のゲームの場合、それらの処理を行っている間、他のプレイヤーが待たされるため、暇に感じてしまいます。
セットアップ処理やラウンド間処理についても、うまくゲーム内に取り込むことによってプレイヤーごとに同時に手分けして処理できるようにすると良いでしょう。
(例えば、セットアップ内容を個人ボード上に行うようにして、各プレイヤーがそれぞれセットアップやラウンド間処理ができるようにするなど)
手分けして処理できるようにすることで処理の時間が単純に短くなるというメリットもあります。
2.「めんどくさいと感じる」ときの対策
ゲーム中にプレイヤーが「作業感」や「めんどくささ」を感じることは好ましいことではありません。
この「作業感」は、ほんとにゲーム中の処理という「作業」を行っている場合や、既に数手番先まで計画してしまっていて、「手番で考えることが少ない=作業」になってしまっている場合もあります。
このような時に効果的な対策をいくつか紹介します。
2-2.セットアップや処理がめんどくさい
2-2-1.つまらない処理を減らす(嬉しい処理にする)
とにかくゲーム中のつまらない処理は減らしましょう。
どうしても処理が減らせないときは、嬉しい処理に置き換えることを考えてみましょう。
処理の中でも、「収入」などのプレイヤーにプラスになるものなら、単調な作業でも楽しく感じるものです。
例えば、『アグリコラ 牧場の動物たち』の、2匹以上の動物がいるところに動物を1匹ずつ足す「繁殖」の処理などは、ラウンドの合間に行う単調な作業のはずですが、そのタイミングが待ちきれないほどです。
つまり、悪い行動をしたプレイヤーにペナルティを与える形で処理を入れるより、良い行動をしたプレイヤーに報酬を与える形で処理を導入すると、処理がストレスに感じにくくなります。
2-2.自分の手番がめんどくさい
2-2-1.常に魅力的な選択肢が複数あるようにする
プレイヤーにとって十分な魅力的な選択肢がない場合、プレイヤーは消去法で選択肢を選ぶことになってしまい、「自分でゲームをしている感じがしない=作業感を感じる」という印象になってしまう場合があります。
プレイヤーに与えられる選択肢は、できるだけプレイヤーに魅力的なものにすべきです。
その中で、より良いのはどれだろうか、と考えさせる方がプレイヤーに「自分でゲームをしている感じ」を与えることができます。
2-2-2.目標を近くに設ける
プレイヤーはゲーム中で与えられた様々な目標を目指してプレイを行っています。
例えば、資源を集めて建物を建てて勝利点を得る、といった建築系のゲームでは、「建物を建てる」というのを直近の目標として、資源を集めるアクションを行うことになります。
しかし、与えられた目標が遠すぎて達成までに必要な手番が多すぎると、ゲームが遅遅として進まないという印象を与えてしまい、結果として作業感やめんどくささを感じさせてしまいます。
(上の例だと建物に必要な資源を獲得するための手番数が多すぎるなど)
直近の目標までの手番数が長すぎることがないように、数手番くらいで直近の目標が達成できるように、目標までの距離を調整すると良いでしょう。
2-2-3.運要素やインタラクションを入れる
「戦略的」すぎるゲームを作ると、結果として何手番も先の行動を決定してしまっているため、各手番で考えることがなく、「最初に自分が考えた戦略をなぞっているだけ=作業感を感じる」という印象になってしまう場合があります。
この場合はゲームを少し「戦術的」にしてあげる必要があります。
つまり、プレイヤーの計画を狂わせる要素を導入してあげるのが効果的です。
具体的には、運要素やインタラクションを導入することです。特に、インタラクションは効果的で、早取りなどの要素を入れるだけでこれらを改善できる可能性があります。
3.「ゲームが長いと感じる」時の対策
ゲーム中にプレイヤーが「ゲームが長いな」と感じてしまうのは、既にゲームに飽き始めている証拠です。
これは、単純にゲーム時間が長すぎる可能性もありますし、勝敗がほぼ決定し、プレイヤーが途中でゲームを諦めてしまっている可能性もあります。
このような時に効果的な対策をいくつか紹介します。
3-1.序盤が無駄に感じる
3-1-1.序盤をセットアップに含める
ゲームによっては序盤の行動が固定化されてしまうようなゲーム構造のゲームがあります。
もしも、定石のように初めの選択肢が決まっているのなら、定石になってしまっている部分までセットアップに含めてしまうと良いでしょう。
例えば、Studio GGのゲームだと『開拓王』では、ゲーム開始時にタイルがほぼない状態ではタイルを引く「開拓」アクションしか選択できませんでした。そのため、セットアップとして「タイルを5枚引いて3枚選んで配置する」という処理を追加することで、最初から「生産」を選ぶ余地がある状態からゲームがスタートするようにしています。
3-2.途中でゲームを諦めてしまう
3-2-1.序盤に大きな差がつかないようにする
プレイヤーが早い段階でゲームを諦めてしまわないようにすることも「ゲームが長い」と感じさせないためには重要なことです。
そのために重要なのは序盤に大きな点数の差をつけないことです。
また、定期的な収入のような明らかに差を感じさせる成長要素も、同様の問題をはらんでいるので気を付けた方がいいでしょう。
また、点数などの要素を一部非公開にすることで、直接比較できないようにするのも良いでしょう。
3-2-2.逆転可能性を作る
逆転できる可能性があれば、多少のビハインドを背負ったとしても、プレイヤーはゲームを投げずに続けることができます。
後半ほど得られる点数が大きくなって行ったり、ギャンブル要素の高い選択を選ぶことができるようにしておくと、プレイヤーは勝利を諦めずにゲームを続けることができるでしょう。
拡大再生産のゲームでは、拡大した資源を勝利点に変換する部分にボトルネックを作っておくことによって、理不尽さを与えずに逆転可能性を導入することができます。(例:『リトルタウンビルダーズ』)
3-3.なかなか終わらない
3-3-1.ゴールから遠ざからないゲームにする
ゲームによっては、終了しにくいルールになっていることがあります。
このようなゲームを「収束性が悪い」と表現することがあります。
例えば、相手のHPを削っていく仕組みの対戦ゲームで、簡単に回復ができてしまうと収束性が悪くなってしまいます。
勝利点などを終了トリガーとするゲームでは、勝利点が減る要素を導入することはやめましょう。
ラウンド制を採用するのも一つの解決策です。既定のラウンド数(手番数)で終わるゲームは確実にゲームが終了するため、収束性を気にする必要がなくなります。
3-3-2.全ての勝利点行動を終了トリガーと紐づける
もし、終了トリガーを引くことなく、勝利点を取れる選択肢がある場合、その行動をとり続けた場合、勝利点を増やすことができるのにゲームが終わらないため、永遠にゲームが続いてしまいます。
終了条件が多くなってしまったとしても、勝利点行動は全て終了トリガーと紐づけておくことがいいでしょう。
3-3-3.終了トリガーを引くことにメリットを付ける
終了トリガーを引くことがはできるが、ゲームが終了しても負けが確定している場合、終了トリガーを引かないことが勝つためにより良い選択肢になってしまいます。
こういったことを防止するために、終了トリガーを引く行為には、ある程度旨味がなくてはなりません。終了トリガーを引きたくなるようにメリットを付けるなどの工夫をしてみましょう。
3-3-4.早めに終了する
ゲームが長く、繰り返しが多いとマンネリ感を感じ、ゲームに飽きてしまう場合があります。
このような場合は、思い切ってゲームを短くしましょう。
ゲームを短くすることで解決する問題は多いです。
とりあえず、終了トリガーを少し早くしてみたり、ラウンド数を減らしてみて、ゲームをテストしてみるのはおすすめです。
もうちょっとやりたいな、ぐらいで終わる方がプレイヤーのリプレイ率も上がると思います。
まとめ
今回は『つまらない時間をなくす方法』と題して、ゲームに対して、
退屈に感じる
めんどくさいと感じる
ゲームが長いと感じる
といった印象を感じてしまう時間をなくすためにできる対策をいくつかあげてみました。
「つまらない時間をなくす」ことは、ゲームのプレイ時間に対する面白い時間の割合を上げることに繋がるので、プレイヤーの体験を改善することに繋がります。
少しでも、読んでいただいた方の参考になれば幸いです。
この記事の他にも、ゲームデザインに関する記事やこれまでに作ったゲームの制作ノートを公開していますので、合わせてお読みいただけると嬉しいです。