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『マイトロッコタウン』制作ノート ディベロップ編

こんにちは。
Studio GGのShun(@nannann2002)です。

今回はゲームマーケット2023春で発売した『マイトロッコタウン』の制作ノートの続き、「ディベロップ編」を公開したいと思います。

前回の記事「デザイン編」については以下からご覧ください。

このような過程を経て、コアとなるルールが定まった『マイトロッコタウン』でしたが、最終的に完成するまでは結構時間がかかりました。
以下でディベロップにおいて修正したポイントについて紹介していきます。


ラウンド数の決定

最初に決定したのはラウンド数です。

最初のプロトタイプを作った段階では、6ラウンドくらいを想定していたのですが、すぐに4ラウンドのゲームにすることを決定しました。

ボードゲームを作るときは常に、ラウンド数は少し足りないくらいになるように調整しています。その方が、リプレイ欲を刺激すると思うからです。

また、実現したいゲーム性に対して必要最低限のルールになるように、プレイ時間はなるべく短くするように気を付けています。

資源の決定

次に早い段階で決定されたのが資源の種類です。

当初は工場ゲームを想定してたため、「グッズメイカー(ファームウィズブラウニーズ)」のように、何度か資源を別の資源に変換するようなゲームを想定していました。

なので、当初は以下のような資源ツリーを考案しました。

最初に考えた資源ツリー(二次変換資源の「鉄」がある)

しかし、短いラウンドで二段階の変換を行うことが難しく、また、資源の価値が大きく違うため、調整も難しいという問題があることが分かりました。

この時点で、『マイトロッコタウン』では「資源の変換」という要素は必須の要素ではない、と判断し、その部分をザクっと削りました。
つまり、ほぼ完全にフラットな資源構造に変更することにしたのです。(「木」→「炭」の変換はあるが、「炭」は直接生産も可能)

削ることも、時には大切なディベロップです。その際は、ゲームのコアとなる部分はどこかをしっかり考える必要があります。

このゲームでコアとなるのは、「経路構築」や「輸送」であり、
資源を生産し、それを勝利点に加工する建物に輸送することでその楽しさは十分に実現できていると考えたのです。

初期建物の調整

初期タイルの「森」と「山」

最初の時点では、初期建物「森」と「山」から生まれる資源である「木」と「石」はどちらも4つで考えていました。しかし、最終的には「木」を5つ、「石」を3つに変更しました。

最も大きな理由は、「木」が4つだと「木炭窯」で「木」を「炭」にすると、すぐに木が足りなくなってしまうためです。

また、資源の数を変えることで「木」と「石」の非対称性もより強調されるというメリットもあります。

基本建物の調整

基本建物を決定する時にも、「麦」、「炭」、「羊」の、どの資源を利用するかにより、プレイ感がなるべく変わるようにと考えて決めました。

それぞれの資源には、特殊タイルも含めて以下のような傾向があります。

  • 「麦」:生産で獲得しやすい。

  • 「炭」:加工で獲得しやすい。

  • 「羊」:即時に獲得しやすい。

これらを表現するように基本建物3種の効果も以下のように決定されました。

基本建物の「畑」「木炭窯」「草原」
  • 畑:「生産フェイズ」に「麦」を生産

  • 木炭窯:「加工フェイズ」に「木」を「炭」に変換

  • 草原:「配置時」に「羊」を2つ獲得

このように、「麦」、「炭」、「羊」で資源の特徴を変えることで、
どの資源を(または資源の組み合わせを)使う戦略を選ぶかによってプレイ感が変わるようにしました。

この方針はうまくいっていたので、大きな変更もなく完成版に引き継がれています。

最終ラウンドのルール

「デザイン編」で述べた通り、当初は「建設のない最終ラウンド」、つまり、「生産」、「輸送」、「加工」で構成される「第5ラウンド」を導入することにより、構築した工場の「自動化された自分の工場タウンを眺める」機会を作り出そうとしていました。

しかし、「木炭窯」のような資源の変換効果を持つ建物が建てられた場合、いくつかの資源が変換はしたものの得点化されず、あまりすっきりしない終わり方をする展開がよく見られ、気にかかりました。

これを解決するために「第5ラウンド」だけ、「輸送」と「加工」は無限に繰り返すことができるルールを導入しました。

「無限に繰り返せる」というルールは、基本的にバランスブレイカーなルールであるため、バランス調整を困難にするという問題があります。しかし、それを補って余りある「爽快感」がこのルールにはありました。

最終的には、「第5ラウンド」はなくなり、
最終ラウンド(第4ラウンド)は『輸送』と『加工』を好きなだけ行うことができる、
というシンプルなルールにまとまりました。

この理由は、「『輸送』と『加工』を好きなだけ行うことができる」というルールだけで十分「自動化具合を眺める」効果が見込めるためです。そして、次に「建築」フェイズがない「生産フェイズ」があると、どうしても「森」や「山」から生産される「木」や「石」が余りがちになるため、この「木」や「石」を上手く、加工できる建物を建てることが必須になり、終盤の戦略を固定化してしまうためです。

これに対して、最終ラウンドに「建築フェイズ」があれば、「木」や「石」といった建築資材を「修道院」や「お城」といった、「ゲーム終了時に勝利点を得る」建物に変換して利用したり、「草原」をはじめとした「資源が配置時に獲得できる建物」に利用したりなどの、選択肢の幅が生まれることになります。

「修道院」、「お城」、「草原」

このようにして、最終ラウンドのルールが決定されました。

認知負荷の軽減

『マイトロッコタウン』のプロト版ではプレイヤーの計画性を重視して、全ての特殊建物タイルが公開されており、任意の建物を建築することが可能になっていました。

比較的初期のゲームボード

さらに、当初は基本建物タイルが現状より多く、約10種あり、その上プレイ人数に合わせて使用する基本タイルを全てずらっと並べていました。
(上記のボードでは、4人プレイでなんと40枚のタイルが並んでいます!)

これはプレイヤーに対する認知負荷が非常に高く、初めてのプレイヤーに対するハードルが高すぎるゲームでした。

これを解決するにあたり導入した要素が以下の二点です。

基本建物の並べ方の変更

まず、基本建物の並べ方を変更することにしました。

現状の並べ方は、無駄な認知負荷をプレイヤーに与えます。また、ラウンド毎に基本タイルを山札から補充する仕組みなので、それも面倒すぎます。

そこで、裏向きの山札の一番上のタイルのみを表向きにする方法を思いつき、これを採用することにしました。

実際、これはうまく動作したため、この方式で行くことに決まりました。

特殊建物を山札から公開へ変更

特殊建物が全公開されているのはプレイヤーに対して大きな負荷になるため、これも変更する必要がありました。

また、別の問題として、当初想定していた16枚程度ではゲーム中に足りなくなりがちであるという問題もあったため、逐次公開へ変更することは避けられなくなっていました。

そのため、最初は特殊建物を一つの山札にまとめ、4~5枚ほど公開し、取られるたびに新たなタイルを公開するという一般的なオープンドラフトの方式を採用してみました。

何回かのテストではこの方式でも問題ないかのように見えましたが、回数を重ねていくと、場のタイルがほぼ要らないタイルで埋め尽くされてしまうということが頻発することがわかりました。

その問題を解決した方法は次に説明します。

特殊建物の公開ルールの調整

『マイトロッコタウン』の「特殊建物」には、多種の効果を持つタイルが含まれています。

  • 資源を生産するタイル

  • 資源を別の資源に加工するタイル

  • 資源を勝利点に変換するタイル

  • 配置時に資源を獲得できるタイル

  • ゲーム終了時に勝利点を獲得できるタイル

先ほど書いた一般的なオープンドラフトでは、序盤に、「ゲーム終了時に勝利点を獲得できるタイル」が並びすぎてしまったり、終盤に「資源を生産するタイル」ばかり並んでしまうと、ゲーム中の選択肢が少なくなってしまい、ゲームとしての体験が非常に悪くなってしまいます。

これを解決するための簡単な方法は山札を分けてしまうことですが、複数の山札をつくって、そこから4~5枚のタイルを公開するのでは、結局認知負荷が高くなってしまいます。

これを解決するアイデアのもとになったのは「アルナックの失われし遺跡」というボードゲームです。

このゲームは「デッキ構築+ワーカープレイスメント」のボードゲームなのですが、
デッキ構築で使用するカードが二つのグループ(アイテムと遺物)に分かれており、ラウンド毎に公開される枚数が変わるという仕様になっています。

『マイトロッコタウン』ではこのルールを「特殊建物A」と「特殊建物B」の公開ルールに採用しました。

「特殊建物B(before)」には、序盤に有効なタイル、
・資源を生産するタイル
・生産時に勝利点を得るタイル
など、

「特殊建物A(after)」には、終盤に有効なタイル、
・資源を即時に獲得できるタイル
・ゲーム終了時に勝利点を獲得できるタイル
などが含まれています。

これにより、AとBの二つのグループから計5枚のタイルが公開され、ラウンドが進むにつれ、1:4→4:1と配分が変わることで、ラウンドに応じて有効なタイルが公開されつつも、公開するタイルを少なくして、認知負荷を下げることができます。

ただし、「資源を勝利点に変換するタイル」だけは、どちらのグループに入れても問題がありました。

これらのタイルは、ゲーム中で獲得する勝利点の大部分を担うため、
割と序盤から目標として意識する必要があるうえに、他のタイルと違い、いくつも取る必要がない代わりに、取りたいのに取れないという状況があってはいけない、という性質があります。

これを解決するために、これらの建物のグループを「特殊建物V(victory)」とし、他の特殊建物とは別に、常に2枚公開されているようにしました。
(2枚にしているのは最低限の選択肢を与えるためです)

これにより、「特殊建物」は3グループに分けてゲームの安定性を高めるとともに、公開枚数を7枚に抑え、認知負荷を下げることができました。

こうして、特殊建物は今の形になりました。

最終的な建物タイル(基本+特殊で計14枚に)

建物効果のバランス調整

『マイトロッコタウン』は特殊効果を持つ建物タイルが基本5種+特殊58種(A224+B22+V12)の計63種もあります。

ゲームが破綻しない程度にこれらの建物タイルの効果のバランス調整を行う必要があります。

私はこの手のバランス調整はエクセルファイルを用いて計算的に調整するようにしています。

建物調整用エクセルシート

各建物に必要な建築コスト(および線路のコスト)、そしてそこから得られる出力(生産される資源や勝利点)を計算し、コスト当たりの出力を計算します。

当然その出力はラウンドによって変わりますので、何ラウンドで建てたときの出力がいくつになるのか調べ、最大、最低、平均のパフォーマンスをそれぞれ調べていき、調整していきました。

加工による出力のコストパフォーマンスをどうすれば生産系、得点系の建物比較できるようにするのかが難しかったですが、納得のいく計算式を出すことができたと思います。

また、建物の強さは概ね 「特殊タイル」>「基本タイル」 となるようになっており、特殊タイルが滞りなく回るように配慮しています。
また、ランダムに並んだタイルを上手く使えるほど強いという設計は、ゲーム展開を多様化し、楽しさを向上してくれます。

※「ボードゲームのバランス調整」に関しては以下に記事を書いておりますのでよかったらご覧ください。

おわりに

このようにして『マイトロッコタウン』は完成しました。

いかがでしたでしょうか。
楽しんで読んでいただけたなら幸いです。

『マイトロッコタウン』は、

  • 箱庭をつくる「創造的」な楽しさ

  • 輸送経路を接続を考える「パズル的」面白さ

  • 出来上がった工場が動くさまを眺める「自動化」の楽しさ

  • スループットを管理する「マネジメント」の面白さ

が楽しめる満足度の高いボードゲームだと思いますので、
未プレイの方は良かったらプレイしてみてくださいね!


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