『ノーザンブランチ ファーム・ウィズ・ブラウニーズ』制作ノート
こんにちは。
Studio GG のAYAです。
Shunと一緒にStudio GGとしてゲームを制作しています。
『ノーザンブランチ ファーム・ウィズ・ブラウニーズ』は、
私が主に開発したので、
今回はShunに代わって制作ノートを書かせていただきました。
お付き合いいただけたら幸いです。
『ファーム・ウィズ・ブラウニーズ』とは?
『ファーム・ウィズ・ブラウニーズ』は2-4人用、プレイ時間30分程度の、カードだけでできる小箱の資源管理&建物建築ゲームです。やのまんさんから2021年に発売、販売されています。
知らない方のために少し説明していきます。ご存じの方は飛ばしていただけたらと思います。
プレイヤーは、木を木材や炭にする、炭と小麦粉をパンにするなど、資源を別の資源に加工して資産を増やしていきます。資産を増やしたら建物を建築し、またその建物を使用することでより効率的に資源や勝利点を獲得していきます。そして、最も早く10点の勝利点を集めたプレイヤーが勝者となります。
プレイヤーは以下の2つのアクションから1つを選び、実行します。
① 生産アクション
場に並ぶ資源・商品カード、または建物カードを1つ選び、下に描かれたコストと引き換えに獲得します。
② 売買アクション
手札のカードを捨て、場に並ぶ同価値以下の資源や商品、建物カードを獲得します。
手番に一回ずつ、自分が所持している建物の効果をそれぞれ使用することができるので、建物が増えるほど、1手番にできることが増えていき、楽しく拡大感を味わうことができます。
拡張に求められること
『ノーザンブランチ ファーム・ウィズ・ブラニーズ』は、上記で説明した『ファーム・ウィズ・ブラウニーズ』の同じ基本ルールを持ちながら、違う要素を持つ新商品という位置づけで企画されました。
さて、拡張に求められることはいったい何でしょうか?
いろいろな考えの方はいると思いますが、私は以下の二点が重要であると考えます。
新要素の導入
プレイ感の変化
以下で、それぞれについて詳しく説明してきます。
新要素の導入
『ノーザンブランチ』で導入した新要素というと、価値がマイナスである資源「ダング」です。
前作『ファーム・ウィズ・ブラウニーズ』では、家畜(羊や牛)は公開するだけで1次商品をただで獲得することができる効果を持っていたため、手札に持ち続けてしまう傾向がありました。
また、基礎資源の分かりやすい新規要素としてマイナス1価値や、2価値といった少し違う価値のものを入れるとよいのではないか、というアイデアがありました。
上記の問題とアイデアを組み合わせて生まれたのがマイナス1価値の資源、「ダング」です。
「ダング」は、はっきり言うと家畜の糞です。
家畜を手札に持っていると、手番の最後にマイナス1の資源である「ダング」が自動的に手札に加わります。家畜を持っている限り、1手番に1枚ずつどんどん増えるので、手札を圧迫してきます。(手札の上限は7枚)
「ダング」が増え続けるのを止めるためには、家畜を手放すしかありません。これにより、家畜が持ちっぱなしになることを抑制する効果が期待できます。
また、邪魔になることも多い「ダング」ですが、うまく使うことでプラスにすることができます。「ダング」は、唯一手番を使わずに手に入る資源であり、場に「燃料」や「肥料」があれば、1手番で4価値上げて「燃料」や「肥料」にすることができるからです。
このように、「ダング」は家畜を持ち続けることに対するゲーム的なジレンマを与えるとともに、マイナス要素をプラスに変えることで得られる嬉しさをゲームに導入することにも貢献しています。
また、マイナス1価値の基礎資源を導入したことで、1次商品で4価値のものを作りやすくなりました。「ダング(ー1)」と「土(1)」で「肥料(4)」になり、1次商品の価値をばらけさせるのにも一役買っています。
※これは後述する「プレイ感の変化」の中で解説します。
プレイ感の変化
「新要素の導入」は分かりやすい拡張に求められることですが、新要素を導入しすぎてしまうとルールが煩雑になってしまうという問題もあります。
そのため、ゲームの「データ」を変更することでルールを変えることなくプレイ感を変更することは重要です。
ただし、ここで注意したいのはゲームの根幹をなすような特徴的な部分を変えてしまうと全くの別ゲームとなってしまい、元のゲームが好きな方に対して適切なゲームではなくなってしまいます。
「変えてはいけない部分」と「変えても良い部分」を見極めることが重要です。
変えてはいけない部分
『ファーム・ウィズ・ブラウニーズ』で変えてはいけない部分とは何でしょうか?
大きくは以下の2つになると考えています。
「生産」「売買」の回転によるわらしべ長者感
「建物」による「生産」のフリーアクション化(ブラウニーアクション)
どちらも『ブラウニーズ』の根幹をなす部分であり、ゲームを特徴付けている要素です。
この中で、「生産」「売買」は基本ルールから来ている部分ですが、
「建物」による「生産」のフリーアクション化に関しては、「建物カード」の効果の「データ」により実現されている部分ですので、「建物カード」の効果を変更すると、このプレイ感は変わってしまいます。(例えば、全部勝利点変換効果に変えてしまうと全く違ったプレイ感になるでしょう)
このため、多くの建物の効果は資源の生産マップの効果に拘束されることになります。
もちろん、生産マップに縛られない建物も存在しますが、割合としては数が少なく、ゲーム全体のプレイ感を変えるには効果が薄いです。
このゲームでは、「建物の効果を既存のゲームと変更する」という最もオーソドックスな方法で拡張を作ることができない、ということです。
生産マップの一新
では、どの部分の「データ」を変更することができるかというと、
「生産マップ」です。
生産マップを一新すると、このゲームではかなりプレイ感が変わります。なぜなら、場に出てこないと意識しない建物タイルと違い、生産マップは常に手元において意識し続けるからです。
生産マップを一新する上で、この2つに分けて話していきます。
①資源・商品の価値をばらけさせる
②新しいつながり方を作る
①資源の価値をばらけさせる
前作では、基本は1価値、1次商品が3・5価値、2次商品が6~11価値(ほとんどは8価値)でした。
価値がばらけていないのは、生産マップの資源毎の変化が少ないということであり、初心者にとってはプレイの見通しのよさにもつながりますので、1作目としては正しかったと思います。
一方で、プレイ感の幅は狭くなってしまいます。
続編ということでもあり、今作では、基本は1価値とマイナス1価値、1次商品は3・4・5価値、2次商品は6~13(8価値のものはかなり減った)というように、意図して価値をばらけさせしました。
とくに変わったのは2次商品の価値です。以下にグラフを載せます。
今作の方が価値がばらけているのが分かるかと思います。
1次商品でも2次商品でも、それぞれ価値がいろいろあることで、獲得した時に新鮮に感じます。
また今作には、前作ではなかった13価値の2次商品「鏡」があります。それを作るだけでも達成感がありますし、売買することで、6価値の建物なら2つ、12価値の建物でも買うことができ、新しいプレイ感につながります。
②新しいつながり方を作る
また、言うまでもないことかもしれませんが、生産マップの中でも同じつながりのものを名前だけ変えるのではなく、違うつながり方をするものを入れた方が新鮮味が上がります。
たとえば、前作では5価値の「牛」や「羊」が8価値の「肉」になりますが、それを家畜を「鶏」、「豚」と変えて「肉」を「ソーセージ」にと、名前だけ変えてもあまり新鮮味がありません。
今作では、「豚」を3価値にして、「鶏」を5価値にすることで、どちらも「ソーセージ」になります。もちろん、できたら「豚」から「ソーセージ」にした方がお得感があります。だからこそ取り合いが熾烈になったりするわけです。
また、「鶏」を公開することで「卵」を得ることができます。そして、その「卵」は生産によってまた「鶏」になるのです。この動きをするものは前作ではありませんでした。
コストバランスの変更
①2次商品の獲得をしやすく
前作で少し気になっていたのが、場の2次資源があまり動かないということです。
それにより、点差もつきにくくなっている部分もあり、一概にダメなことではないのですが、せっかく拡張を作るのだから、違った体験を提供したくなりました。
先ほどのグラフでわかるように、前作に比べ、今作は2次商品の価値が少し低めになっています(正確には、13価値の「鏡」だけ例外で入れて、それ以外は全体的に低めにしています)。
それにより、前作より2次商品が回りやすくなっているかと思います。なんなら、2次商品が場に5種類ない場面もあるのではないでしょうか。
また、1次商品も5価値のものを減らし4価値を導入することで、少し回りやすくなっています。
②勝利点変換建物を建てやすく
2次商品を勝利点に変換する建物を建てるための資源は、前作では8価値の商品か、1次商品2つがよく使われていました。
今作を作る上で、手札に商品を持ちっぱなしになってしまうことを減らすというのは一貫して考えていました。
8価値の建築資材を作るためには、3価値の商品と基礎資源が必要になります。商品や資源が手札にたまりやすくなるわけです。
また、建物のコストに複数の1次商品が必要だと、片方の商品が手に入っても、もう片方の商品が手元に来るまで、建物を購入することができません。
こういったことを受けて、3価値の1次商品単体で生産できる6価値の2次商品を勝利点変換建物のコストにすることにしました。
③コンボがし易いバランスへ
『ファーム・ウィズ・ブラウニーズ』では、特定の戦略が強くなりすぎないように、相性がいい建物間のコストは繋がりにくいように設計されていました。
例えば、、樽製作所は、生産資源である石材とは、生産マップで見ると分かるように全く関係ありません。
織物工房も、生産資源である木材とは関係ありません。
結果として、戦略による強さの差が出にくくなり、細かなプレイの差が最終的な勝敗に影響してくるようなデザインになっていました。
このデザインは、うまくいったプレイヤーとそうでないプレイヤー間での点数の差が出にくくなるため、ゲームが接戦になりやすいという利点があります。
ただ、一方でジレンマが大きいデザインになっており、爽快感を感じにくいデザインともいえます。
『ノーザンブランチ』では、この部分をあえて相性がいい建物間のコストが繋がりやすいようにデザインすることで、特定のいくつかの強い戦略に導かれるようなデザインにしています。
例えば家具工房は、見ての通り家具の原料と生産資源が同じです。
また、野菜農園も、豚はダングを出すのでそれにより作られる肥料を得やすくなります。
これにより、プレイヤーは建物のコンボを組みやすくなり、うまくいった感を感じやすいデザインになっています。
このように、全体的に
「差がつきにくく接戦になりやすいファーム・ウィズ・ブラウニーズ」と
「うまくいった感を感じやすいノーザンブランチ」
というようにデザインの方針を変更することで、ゲームの根幹を変えることなくプレイ感が変わるようにデザインしました。
両方遊んでプレイ感の違いを感じていただけたら嬉しいです。
まとめ
前作『ファーム・ウィズ・ブラウニーズ』と今作『ノーザンブランチ ファーム・ウィズ・ブラウニーズ』の違いをまとめると以下の通りです。
『ファーム・ウィズ・ブラウニーズ』
・ルールがよりシンプルなので、初めての人にオススメ
・生産マップの偏りが少なく、戦略よりも細かなプレイングの差が重要
・上記より、プレイヤー間の差がつきにくく接戦になりやすい
・パン、肉、羊、布といった資源が登場
『ノーザンブランチ ファーム・ウィズ・ブラウニーズ』
・前作よりも建物の効果が組み合わさりやすく、コンボが実現しやすい
・2次資源が獲得しやすく、場が回りやすく、うまくいった感を感じやすい
・価値がマイナスの資源「ダング」により、新鮮なプレイ感を感じられる
・ソーセージ、酒、青銅、鶏といった資源が登場
どちらも面白いゲームになっていると思いますので、まだプレイされていない方は良かったらプレイしてみてくださいね。