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「パワー・オブ・ザ・ドッグ」(2021) ネタバレあり

基本情報

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(The Power of the Dog)は、2021年の英豪米加新合作のドラマ映画。監督はジェーン・カンピオン。主演はベネディクト・カンバーバッチ。共演はキルスティン・ダンスト、ジェシー・プレモンス、コディ・スミット=マクフィーら。本作は第78回ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門に出品され、銀獅子賞を受賞した。
ジェーン・カンピオン(Jane Campion、1954年4月30日 - )は、ニュージーランド出身の映画監督、脚本家。1993年に公開された『ピアノ・レッスン』で女性監督として初、またニュージーランド出身の映画監督として初となるカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞。また、アカデミー脚本賞、主演女優賞、助演女優賞、脚本賞、セザール賞外国語映画賞、ゴールデングローブ賞主演女優賞ほか各国の映画賞も受賞した。
1997年にはヴェネツィア国際映画祭の審査委員長を務め、北野武に金獅子賞をもたらした。

ログライン
1920年代のモンタナ州、カウボーイたちを率いるフィルは、弟のジョージと再婚相手、御家人のローズ、その息子のピーター達との反りがあわず執拗ないじめを繰り返すが、3人の関係性に徐々に微妙な変化が起きていく。

ストーリー
・執拗ないじめと血なまぐさい復讐劇になるかと思いきや、最後まで複雑な心境の変化を淡々と描いていく話だった。

・以下の記事でも言及されているが、主人公がいない(もしくは3人ともが主人公の)物語。最初はローズにすごく感情移入できるのだが、徐々にフィルの変化から目が離せなくなっていく。そしてピーターは一番苦悩するはずなのだが、そこまで深く踏み込ませない(共感できないともいえるが、あえてそうしているともいえる)ため、最後まで私はどの立場でこの映画を観るべきなのかがわからず、混乱したし、そこが自分のよりどころがない居心地を悪さを感じる、ある種の後味の悪さなのだと思う。

『パワーオブザドッグ』解説・考察(ネタバレ):「主人公」の不在が生み出す複雑な味わいと多面性
https://www.club-typhoon.com/archives/2021/12/11/power-dog-film.html#i

演技・演出
・キャラクターがどんどんと変化していく物語。ローズは気高く子供思いの未亡人からどんどん酒に溺れて、表現が豊かになるのと裏腹に魅力が失われていく。
・一方、フィルの圧倒的に冷徹なローズやピーターへのいじめを見ているはずなのに、ピーターがローズのアル中っぷりをジョージに訴えるところは本当にピーターの環境を心配しているように見える。だがそれは本当にピーターのためなのか。あるいはピーターを手元に置いておきたい一心なのか。あるいはローズへのいじめの一端でしかないのか。フィルというキャラクターの腹の底が本当に読めないのである。あるいはその全てなのかもしれない。
・最後、フィルの話を聞きながら自分で煙草を丸めて火をつけるピーター。それをフィルにも吸わせてやる。まるで処刑を行う相手への最後の一服のように。
・ウサギを殺すことにためらいのないちょっとサイコパス的なピーター。ピーターはフィルのことをどう思っていたのか。初めからローズを脅かす敵だとしか思っていなかったのか。最後のロープのシーン、何を思っていたのだろう。その後、ローズとジョージを見守るようなピーターのカットからして、ローズを守ることが全てなのかもしれない。
・ピーターがローズを守るために父も殺していた説、というのがあるらしい。確かにその可能性はあるのかも。
・3時間あってもいい映画だった。フィルとピーターの心の底が全然見えないからこそ、そこをもっと知りたくなる映画だった。

撮影
・フィルが腰のあたりでロープを縛るカットが2回出てくるのが凄く気になった。ジョージと話している時に一度。そして最後にフィルのためにロープを編んでいる時に一度。
・大量の牛と大自然がとても素晴らしい。
・強いキャッチライト(目の中の光)が印象的だった。
・建物のせいなのか、とても絵画的な照明、トーン。個人的にはあまり好きではないが美しい。
・ローズに心理的なプレッシャーをかけていくフィルの様子がショットでもサポートされている。上からローズの飲酒を見下ろすフィル。一方的に飲酒という罪を見つめている。対して見下ろされるローズはとても弱く見える。

好きだったところ
・山に犬を見出すピーターにびっくりして「本当に今気づいた?」となんども聞き返すフィルがとても人間らしくて可愛いし、その反応でもしかしたらフィルの中に変化があったのかも、と信じさせてくれる。
・ジョジョ・ラビットでも出てきたトーマシン(トーマサイン)・マッケンジーが明るい女中で暗いトーンに明るさをもたらしていた。

自分だったらどう撮るか/盗めるポイント
・意地悪な行為を散々見せて、徐々に良いことをさせていく。
・悪いやつが一瞬素になるところを見せて、無防備さを見せる。

画像引用元:https://forbesjapan.com/articles/detail/45771

ちなみに物語に出てくる炭疽菌、調べてみると細菌兵器にも使われたり、現代でも場合によっては死に至る怖い病気のよう。恐ろしや。。

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