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シネマティックな表現とは
はじめに
一眼レフカメラやミラーレスカメラの発展によって、いわゆる民生機でも映画のような表現ができると、特に近年の動画の時代に突入してから言われるようになったと思います。
写真でもシネマティック・ポートレートという言葉が出てきているように、映画のような表現、は誰しもが憧れるものなのかもしれません。
では、シネマティックとはなにか。
いくつかの記事を引用してみよう。
おおざっぱにシネマティックな表現を制作するには、
内容的な部分で、
・ストーリー性の付与
・ロケーション・キャスティングを含めた計画性
・被写体の感情を切り取る
ルック的な部分で
・背景をぼかす
・カメラ、もしくは被写体に動きをつける
・24コマ撮影や、スローモーション、横長の比率を使用する
ということになります。
しかし、ここで言及されていることってとても表面的で、本質をついていないように感じることはないだろうか。
ここに書かれていることは”シネマティック”な表現において映像・写真を撮影する方法というよりも、映画そのものを撮るための大前提としてでしかない。
ことさら、「背景をぼかす」ことがシネマティックな表現の前提だなんて子供だましであると思いませんか?
それでは”シネマティック”とはそもそもなんなのか
シネマティックという欺瞞
もはや一時期流行った”エモい”という言葉と”シネマティック”という言葉は同義でしかない。そこには前置詞として”なんとなく”がついてしまう。
もちろん比較的容易に多くのインプレッションを稼げるシネマティックな表現というものは、誰でもなんとなく目指してみるものだし、評価も受けやすいであろう。
しかし本質的に目指すところはそれでいいのだろうか?
みんな本当に映画好きでそれ言ってる? なんとなくそれっぽいから言っている/やっているだけじゃない?
言いたいことは上記の記事でとても丁寧に書かれていたので割愛します。
”シネマティック”≠”映画的”であるということ
”シネマティック”を日本語に訳すと”映画っぽい”ということになるが、本来目指すべきは”映画的”であること。
そしてこの”映画的”という言葉がまた厄介である。厄介であるが故にここでは無視する。
映画史を紐解くときにどうしても避けられない作品がある。
オーソン・ウェルズ『市民ケーン』である。
映画史上最も偉大と評されるにも関わらず、よくわからんだのシンプルにつまらないなど散々な言われようで有名な映画だが、この映画の価値はトーキー映画においてストーリー性と映画・映像的表現を極限までマッチさせたうえでエンターテインメントとして昇華したことにある。
※この作品以前においてもドイツ表現主義等で実践されていたことであることは付記しておく。
時系列をバラバラにすることである男の長い人生の一代記にミステリー性とスピード感をもたらす編集構成や、壁を突き抜けていくカメラ、長回しによる映像の持続性といった時間芸術たる映像作品の発展にこれ以上に貢献した作品はないだろう。
また当時の映像技術として、ディープフォーカス(パンフォーカス)が多用されたことも注目される。
1940年当時、まだ高感度フィルムなどなかった時代に、画面全体にフォーカスが来ている状態というのはある程度の条件が必要であった。光量を確保するためには大量の照明を当てるか、絞りを開けるしかなかったのである。映像全体を鮮明に、明確に映すのには技術的な困難があった。
つまり、それまでの映像のボケ(フォーカスの合っていない範囲)といのは、意図せず生じていた部分があったと言わざるを得ない部分があったということである。
黒澤明もまたディープフォーカスを多用した映画監督である。
黒澤は望遠レンズを多用する監督であったらしく、それにおけるディープフォーカスへの執念(とんでもない光量・労力)は並大抵のものではない。
黒澤明についてはとてもわかりやすく興味深いドキュメンタリーがあるのでぜひ一度見てもらいたい。
背景がボケた映像だからといって映画的とは限らない
もちろん映像全体にフォーカスがあっていればそれが映像的に高度であるわけではなく、ましてや昨今言われるようにボケが多いほうが魅力的な映像であるわけでもない。
被写界深度・フォーカスの範囲(ボケ具合)というものは、映像そのものの意図を強調するための手段でしか無い。
ボケ(Bokeh)という言葉は世界共通で、日本語が由来だという話は有名であるが、ボケ(Bokeh)というのはフォーカスの合っていない範囲(Out of Focus)でしかなかったのである。
逆に言うとボケ(Bokeh)を表現のレベルで着目したのは日本人がはじめだったという言い方もできるだろう。昔から好きなんですね笑
あなたが好きだった映画、そんなにボケてました?
Thank you for your watching!