【エッセイ】雨の夜とシティ・ポップ
学校帰り。
その日は雨が降ってたんで、珍しく自転車を置いて歩くことにした。
とは言っても、歩くと1時間かかる家路を、なかなか減らない残りの距離を考えながら進むのはしんどい。
そこで僕は気を紛らわそうと、お気に入りのワイヤレス・イヤホンを、両方の耳にさした。
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最初は「お気に入りの曲」を再生していたのだけれど、どうもその時の気分に合わなかった。
若者が好むような明るい曲は、雨がしとしとと降るその夜とあまりに温度差があり、嫌気が差したからだ。
そこで僕は、ふだんはあまり聴かないシティ・ポップをチョイスした。
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個人的にシティ・ポップには、「雨が静かに降る夜の街」というイメージがある。
疲れた青年が、ビルや信号のネオンが反射するアスファルトを歩く。その光景は、都会さながらの美しさを秘めているけれど、決して彼の心を癒やすことはない。
…これが、ぼくのシティ・ポップのイメージ。
だから、シティ・ポップを聴きながら帰る僕は、(本当は都会でも田舎でもない中途半端ところを歩いているのに、)東京のビル群を横目に、ネオンの光が飛び交う中を歩いている気分になるんだ。
そんな、あたかもミュージック・ビデオの名もない主人公になったような感覚。
そこにぼくを取り巻いるのは、本当は静かな世界なのだけれど、その世界はぼくを中心に回っている気がしてならなかった。
しとしとと降る雨は、ぼくの感情を表すための演出。
信号や街灯は、水たまりに反射するためにある、イルミネーション。
踏みしめているアスファルトですら、意図的にそこに置かれているような気がしてくる。
シティ・ポップは、ぼくにそんな錯覚をさせる。
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シティ・ポップを聴くと、雨の日が楽しくなる。
帰るのが遅くなって、日がすっかり暮れてしまった家路にも、色がつく。
どんよりとしたその日は、シティ・ポップで色鮮やかな日になる。不思議なものだね。
雨の夜とシティ・ポップ。
この組み合わせは、妙に合っている。
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