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アスリート指導で知っておきたい!スキル転移と運動学習の理論を徹底解説【第二弾】

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トレーニングプログラムを考える際、多くの指導者や選手が動作の「完成度」に焦点を当てがちです。しかし、スポーツの現場では「完璧な動作」よりも「柔軟で適応力のある動作」が求められることが多いのではないでしょうか。どれほど美しいフォームを身につけたとしても、それが競技の中で状況に応じた変化に対応できなければ、その動作は十分に活かされない可能性があります。

今回のテーマである「コーディネーション」と「動作の多様性」は、選手の競技パフォーマンスを最大化するうえで欠かせない視点です。人間の身体は、数多くの筋肉や関節が相互に連携しながら一つの動作を生み出します。この複雑なシステムを適切に機能させるためには、動作が固定化されすぎることなく、さまざまな状況に適応できる柔軟性を持つ必要があります。

たとえば、動作の成功率が60%を超える段階で固定化が始まると言われています。これを逆手に取り、トレーニング中に意図的に変化を加えることで、選手が「多様な状況下で適応できるスキル」を磨くことができます。アクアバッグを用いたトレーニングの例でも、動作のバリエーションを増やすことで選手の適応力が高まり、実戦に活かせるスキルが養われます。

本セッションでは、運動スキルの学習を「探索」「安定化」「活用」の3段階で整理したエコロジカル・ダイナミクスフレームワークを基に、動作の多様性と適応力を育むための理論と実践方法について掘り下げていきます。また、Bernstein問題や動作の自由度と文脈変動性といった理論的背景も取り上げ、競技パフォーマンス向上への応用方法を探ります。

コーディネーションと動作の多様性が選手に与える効果とそのトレーニング方法について、一緒に考えてみませんか?これをきっかけに、あなたの指導やトレーニングプログラムに新たな視点を取り入れるヒントを見つけていただければ幸いです。


コーディネーション

人間の身体が持つ複数の要素(筋肉・関節など)が、相互に調整しながら一つの「ワーキングユニット(機能的な状態)」を作り出す能力。

60%理論

動作の成功率が60%を超えると、その動作が「固定化」される可能性があります。これは、一見すると安定した動作習得のように見えますが、特定の動作が身体に染み付きすぎることで、新しい動作の習得を妨げたり、既存の動作パターンに悪影響を及ぼすことがあります。トレーニングにおいては、動作の「型」をただ完成させるのではなく、それを多様な環境や条件に適応させることが重要です。

例えば、アクアバッグを用いたトレーニングで「ツイストフォワードランジ」を行う場合、最初は胸の前にアクアバッグをホールドした状態で動作を安定させる練習を行います。この段階で動作の成功率が60%程度に達したら、次のステップとして環境や負荷を変化させます
・アクアバッグの重量を変える(軽くしたり重くする)。
・バッグの持ち方を変え、胸の前から肩の上に乗せる動作に切り替える。
・ツイストを取り入れたフォワードランジから、チョッピング動作を加える。

これにより、動作の基本形を固めすぎることなく、異なる負荷や環境に適応する力を養うことができます。重要なのは、動作の型を完璧にすることではなく、それが様々な状況に適応できる柔軟性を持つようにすることです。
このように、動作が60-70%完成した段階で、新しい制約や課題を追加して変化を与えることで、トレーニングはより実践的で効果的なものになります。アクアバッグのような外乱を生むツールを活用することで、適応力を高め、選手が競技において多様な状況で安定したパフォーマンスを発揮できるようにするのです。

この方法論の意義は、「型の完成」をゴールとせず、「動作が多様な状況に対応できる力」を育てることにあります。これにより、選手は競技の実戦環境で直面する予測不能な状況にも柔軟に対応できるスキルを身につけることができます。

動作の多様性とコーディネーション

1. 動作の多様性とは?

動作の多様性とは、同じ目的を達成するために、複数の異なる動作や方法が存在することを指します。

「この動きが正解だ」と限定せず、選手それぞれの動作の個性や適応を認める考え方。

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