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【九】写し鏡のこちら側と向こう側と
感情を殺す作業はいたって簡単で、多種多様な殿方の指や舌や性器が触れた途端、魂をからだから抜くだけ。どうやって抜くの? と聞かれたら、具体的に答えられないのだれけど、目を閉じればそれでいい。次に目を開けたときには、すべてが終わっている。
そうこうしているうちに、魂が家出した。
わたしは小学校に通いはじめた。
なんせ子どもなもんで、考えが及んでいなかった。どうしたんだろ、くらいにしか思ってお
【八】二十七歳のわたしにできることなんて、わたし以下
ドライブの行き先は、ママの実家だった。そしてそのあと、わたしはママのおねえさんーーー叔母だ。田舎に珍しく独身で、美容室を経営しているーーーが運転する車で、となりの県の、山奥にある寺へ連れて行かれた。もちろん、ママもいっしょに。せんせい、と呼ばれるおばあちゃんがわたしを見た瞬間、「いいね」と言った。
せんせいの息子の和尚さまは、わたしをとても気に入った。
どの男も、なぜ、おふろ場を好むのだろう
【七】あなたの罪はわたし見殺しにしなかったこと
「あ、指入るんだ」
ながらく富山県にいたのに、自分の生まれ育った街に戻ったとたん、関西弁で話すようになったパパは、深いひとえ瞼を瞬かせ、笑った。やさしい湯気や湿度、業務スーパーの激安ボディソープのあまいにおい、出しっぱなしのシャワーのお湯の生ぬるさ。あたまの中がもやもやしたりくらくらしたりして、おなかの奥の痛みといわかんが、遠のく。
でも、こんなの、ぜんぶ無意味だ。
これが、わたしの人生の
【六】美しいわたしを醜悪にしたのはわたしだと気づいているけれど、だからなに?
別にどうってことないんだけど、って顔をしている女の子の、あいらしいちいさな耳に、「ざまあみろ」と囁いた。
途端、女の子が、ふるふると震えだし、にせものみたいな二重瞼を一度、閉じた。そっと頬を伝う透明な涙。わたしはその、でき過ぎな演出に腹が立った。わたしはこんなにミジメなのに。女の子に馬乗りになり、ばかみたいに腰を振っている、坊主頭の男にエールを送る。いいぞ、もっとやれ!
わたしの声援が聞こえ
【五】わたしは面の皮が厚くて都合のいい耳を持っていて醜悪な唇があるから生きている
女の子は、あいするひとにあいされているわたしが、とてもきらい。だからわたしのあいするひとと、あいするひとにあいされているわたしが、だいきらい。昨日、寝付くたびに、女の子にたたき起こされた。わたしの足をばんばんたたいてみたり、ベットの周辺を足音を立てて歩いてみたり。年相応の、女の子らしいいたずら。おかげで寝不足だ。それをやれやれ、で済ませてしまうわたしは、女の子に後ろ暗さを感じているから。女の子を
もっとみる【四】破滅していたいだけ
あの頃のわたしは美しかった。
「あなたがともだちがほしいと言えば友達を、こいびとがほしいと言えば恋人を、かぞくがほしいと言えば家族を、言葉もからだも尽くして、創ってきた。友達も、恋人も、家族も、わたしのもの。でも足らない。なんでなの。今、わたしは恵まれている。もう和尚さまの男性器を舐めなくていいし、味がする食事が摂られるし、服も鞄もジュエリーもほどほどに持てている。わたしはしあわせ。なのにどう
【三】Amazonで1,000円くらいで買ったであろうネグリジェを着て殿方と寝る女の子
母が私の頭を撫でた。その手つきは優しい。それからぽつりと、呟いた。「和尚さまのところへ行きなさい」。
わたしはお風呂上がりだった。あまりにスケスケだから、着る意味がわからないネグリジェは、けれど、母から、ぜったいに着るようにと、きつく言いつけられていた。淡いピンク色の、胸元や裾がレースーーーところどころ、糸くずが出ているーーーの、スケスケすぎるネグリジェ。寒くはなかった。たぶん、季節は冬だった
【ニ】愛とはぬるま湯であり行き止まりであり、だからわたしを殺す
わたしにはあいするひとがいる。なぜ「あいしている」のかというと、あいするひとが、わたしをあいしているから。そう、あいするひとは、わたしをあいしている。とてもただしく。だからこそ歪に。
これは事実なのか、真実なのか、はたまた憶測なのか、幻想なのか、わたしにはわからない。ただ、わたしは今、あいするひとの実家で、あいするひととあいするひとを産んだおかあさまと、暮らしている。このことはわたしと、先生が
【一】腐った菜の花と散乱するPTPシートと売春婦な女の子と
「まちがえちゃった」
高めの声と舌足らずな話し方は「てへぺろ」的なチャーミングさがあるけれど、それは聴覚だけで情報を受け取った場合であり、わたしは盲目ではないため、女の子の表情がよおくわかる。やりやがったな、この売春婦め。と罵る気力はない。ところどころニスが禿げ、薄い傷がいくつもあるフローリングに散らる、PTP包装シートを数えた。が、目が霞んでよく見えない。
どうしてこんなことをするの、だな