令和6年度短答式憲法解説
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令和6年度 司法試験 短答式試験 憲法解説
〔第1問〕(配点:3)
人権の享有主体に関する次のアからウまでの各記述について、bの見解がaの見解の批判となっている場合には1を、そうでない場合には2を選びなさい。(解答欄は、アからウの順に[No.1]から[No.3])
ア.a.天皇も国民に含まれるので、憲法第3章の保障する権利の享有主体であるが、憲法自体が規定する皇位の世襲と職務の性質との関係で、特別に広範な人権制約が認められる。
b.公務員を全体の奉仕者として定める憲法第15条第2項のように憲法の文言に手掛かりがあれば、他の国民についても、天皇と同様に広範な人権制約が認められることになる。[No.1]
イ.a.判例によれば、外国人の政治活動の自由の保障は、我が国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位に鑑みこれを保障することが相当でないと解されるものには及ばない。
b.外国人には、参加の態様にかかわらず、政治的な主張を行うデモや集会に参加する自由が保障されなくなる。[No.2]
ウ.a.判例によれば、会社は、自然人たる国民とひとしく国税等の負担に任ずるものである以上、自然人たる国民と同様に政治献金をする自由を有するので、会社による政治献金について、自然人たる国民による寄附と別異に扱うべき憲法上の要請はない。
b.会社等の法人に対して、自然人たる国民と同様に政治献金の自由を保障するとしたら、政治腐敗への対応策として企業・団体献金を法律で禁止することが困難になる。[No.3]
正解 ア-1・イ-2・ウ-1
ア ○ 批判となっている
aの見解は、天皇は憲法に規定されるものとの関係から、国民の一部としても特別に広範な人権制約が認められるとしているが、bの見解では、その見解を敷衍させると公務員であっても、天皇と同じような人権制約がみられ、公務員に民事裁判権が認められない帰結になるとする。そのため。bの見解は批判となっている。
イ × 批判となっていない
判例( 最大判昭53.10.4)は、「憲法第三章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべきであり、政治活動の自由についても、わが国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位にかんがみこれを認めることが相当でないと解されるものを除き、その保障が及ぶものと解するのが、相当である。」そうだとすれば、参加の態様等、個別具体的事情により、外国人の政治活動の自由が保障されると解される。しかし、bの見解はaの見解とは見当違いの見解であることから、批判とはならない。
ウ ○ 批判となっている
判例(最大判昭45.6.24)は、「憲法三章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものであるから、会社は、公共の福祉に反しないかぎり、政治的行為の自由の一環として、政党に対する政治資金の寄附の自由を有する。」とする。そこで、bの見解では、会社に政治献金の自由が保障されることが認められる以上、それを制約する法律を制定することは困難となるという点で、批判となる。
〔第2問〕(配点:2)
私人間における人権保障に関する次のアからウまでの各記述について、正しいものには○、誤っているものには×を付した場合の組合せを、後記1から8までの中から選びなさい。(解答欄は、[No.4])
ア.最高裁判所は、私企業での男女の定年年齢を区別した就業規則の効力が争われた事件において、社会情勢の変化に伴う人々の意識の変化に言及することなく、企業経営上の観点から合理的理由がないことにより、当該規則が性別のみによる不合理な差別を定めたものとして無効とした。
イ.最高裁判所は、私立大学学生が大学当局の許可なく学外団体に加入したことに起因する退学処分の効力が争われた事件において、大学が学内外を問わず学生の政治的活動につき広範な規律を及ぼすとしても不合理とはいえないが、退学処分に際しては、教育機関にふさわしい適切な手続と方法により反省を促す過程を経る法的義務があるとした。
ウ.最高裁判所は、学生運動歴等を理由とする私企業による本採用拒否の効力が争われた事件において、個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害の態様、程度が社会的に許容し得る範囲にとどまる場合、憲法を適用ないし類推適用せず、私的自治に対する一般的制限規定である民法第1条、第90条等の諸規定の適切な運用によって調整を図るものとした。
1.ア○ イ○ ウ○ 2.ア○ イ○ ウ× 3.ア○ イ× ウ○
4.ア○ イ× ウ× 5.ア× イ○ ウ○ 6.ア× イ○ ウ×
7.ア× イ× ウ○ 8.ア× イ× ウ×
正解 4
ア ○ 正しい
判例(最判昭56.3.24=日産自動車事件)は、上告会社である日産自動車の就業規則は、「男子の定年年齢を60歳、女子の定年年齢を55歳と規定しているところ、右の男女別定年制に合理性があるか否かにつき、原審は…上告会社の企業経営上の観点から定年年齢において女子を差別しなければならない合理的理由は認められない旨認定判断したものであり、右認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、正当として是認することができる」と判示している。
イ × 誤っている
判例(最判昭47.7.19=昭和女子大事件)は、「大学は、国公立であると私立であるとを問わず…その設置目的を達成するために必要な事項を学則等により一方的に制定し、これによって在学する学生を起立する包括的権能を有する」としつつ、「学校当局の有する右の包括的権能は無制限なものではあり得ず、在学関係設定の目的と関連し、かつ、その内容が社会通念に照らして合理的と認められる範囲においてのみ是認されるものである」と判示しており、反省を促す過程を経る法的義務があるとはしていない。
ウ × 誤っている
判例(最判昭48.12.12=三菱樹脂事件)は、「私人間の関係においても、相互の社会的力関係の相違から、一方が他方に優越し、事実上後者が前者の意思に服従せざるを得ない場合があ」るが、「このような場合に限り憲法の基本権保障規定の適用ないしは類推適用を認めるべきであるとする見解もまた、採用することはできない」と判示していることから、個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害の態様、程度が社会的に許容し得る範囲にとどまる場合に限定していない。
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