
それがお前の全力なのか?
『それがお前の全力なのか?』
「すみません、やり直します!」
(企画を練り直した後)
「これでお願いします!」
『やればできるじゃないか。よし、これで行こう!』
何度これを繰り返しただろうか。
毎回その時の全力で作って出している。しかし一発で通ったことは一回しかない。その一回はすごく苦い記憶で…
『それがお前の全力なのか?』
「はい!これが今の僕の全力です!」
『そうか…わかった。それでいいよ。』
どこか寂しそうな上司の顔が今でも思い出される。
結果、企画はそこそこ当たった。成功と言っていいレベルであった。しかし、何か取り返しのつかないことをしてしまったような、そんな気がしていた。
後日、上司と飲む機会があった。いまだにもやもやしていた自分は、この話を話題に出してみた。
「あの企画、何をすればもっと良くなったでしょうか?」
『やめろよ、酒がまずくならぁ。』
「ぜひお伺いしたいんです!何かすごく大事なことを無くしてしまったかのように感じるんです。」
『…あの時、お前は考えることを止めた。満足したんだ。いいか?満足していいのはお客さまだけだ。俺らが満足しているとしたら、それは危険信号だと思った方が良い。』
「それはなぜでしょうか?近江商人の教えの『三方よし』にも売り手の満足はあるじゃないですか。」
『満足したらそこで止まっちまうだろ?お客さまは飽き性だ。俺らが停滞したら、あっという間に他に流れてしまうよ。』
「…。」
『今回の企画、すげぇ良かったよ。ただな、お前だったらもっと良くできるんじゃないかって思った。根拠は何もない。上司なんて信じて任せることと承認出すことしかできねぇからよ。どうだ?今考えてみて。もっと良くできたか?』
「…わかりません。でも、もう少し考えることはできたと思います。」
『そうだな、それでいい。さ、辛気臭い話はこれぐらいにしとこうや。そういや、こないだアイツがやらかしてよぅ…』
その後、上司はグループ会社の社長にまで登って行ってしまい、話す機会が無くなってしまった。ただ、いまでも節目節目にはこのやりとりを思い出す。
自分も誰かの背中を押せるようになるのだろうか。
いいなと思ったら応援しよう!
