
【ヤマトホールディングス戦略分析③】EC・法人市場を狙うターゲット戦略をSTP分析
はじめに
こんにちは、戦略分析ラボです。
ヤマトホールディングスは、日本国内の宅配便市場で圧倒的な知名度とシェアを誇る企業です。EC市場の拡大により、個人向け宅配の需要が増加する一方で、法人向け物流サービスの高度化も進んでいます。競争環境が激化する中で、ヤマトホールディングスがどのような市場戦略を展開しているのかを理解することは、今後の成長を考える上で重要です。
本記事では、STP分析を用いて、ヤマトホールディングスの市場戦略を整理します。まずは、ヤマトホールディングスがどのように市場を分類しているのかを見ていきます。
STP分析とは

STP分析とは、企業の市場戦略を「市場の細分化(Segmentation)」「ターゲットの選定(Targeting)」「ポジショニング(Positioning)」の3つの視点から整理する手法です。市場の特性を把握し、最適な顧客層を明確にするために用いられます。
Segmentation(市場の細分化)
市場の細分化(Segmentation)とは、異なるニーズを持つ顧客層を分類することです。ヤマトホールディングスの事業は、大きく「個人向け宅配(BtoC)」と「法人向け物流(BtoB)」に分かれますが、それぞれの市場の中でも細分化が進んでいます。
① 個人向け市場(BtoC)
個人向け市場では、ECサイトを利用する消費者、フリマアプリを使う個人出品者、食料品や医薬品などを取り扱う消費者など、多様なセグメントが存在します。特に、近年は「即日配送」「コンビニ受け取り」「置き配」といったニーズが高まっており、ヤマトホールディングスはそれぞれの顧客層に合わせたサービスを展開しています。
② 法人向け市場(BtoB)
法人向け市場では、小売業、メーカー、EC事業者、医療機関など、さまざまな業界が対象となります。企業ごとに求める物流サービスが異なるため、ヤマトホールディングスは「クール宅急便(冷蔵・冷凍配送)」「ヤマトフルフィルメントサービス(EC倉庫・物流支援)」など、業界特化型の物流サービスを提供しています。
③ グローバル市場
ヤマトホールディングスは、日本国内だけでなく海外物流市場にも進出しています。特に、アジア圏においては、越境EC(海外向けEC販売)の増加に対応し、国際配送サービスを強化しています。これにより、日本企業の海外展開を支援するとともに、新たな市場開拓を進めています。
Targeting(ターゲットの選定)
ターゲットの選定(Targeting)とは、細分化した市場の中から、どの顧客層に集中してサービスを提供するかを決定するプロセスです。ヤマトホールディングスは、以下の3つの主要ターゲットを設定しています。
① EC利用者(個人向け)
EC市場の拡大に伴い、オンラインショッピングを利用する個人消費者はヤマトホールディングスの最重要ターゲットの一つです。特に、アマゾンや楽天などの大手ECプラットフォームと連携し、「時間指定配送」「再配達の効率化」などのサービスを提供しています。また、メルカリなどのフリマアプリ利用者向けに、コンビニや宅配ロッカーを活用した配送サービスを強化しています。
② 企業向け物流(法人向け)
小売業やメーカーなど、企業向けの物流サービスも重要なターゲットです。特に、食品・医薬品業界向けの「クール宅急便」、EC事業者向けの「ヤマトフルフィルメントサービス」など、業界ごとに特化した物流ソリューションを展開しています。企業のDX推進に対応するため、物流管理のデジタル化も進めています。
③ 環境意識の高い企業・個人
近年、環境負荷を低減する取り組みに注力する企業や個人が増えています。ヤマトホールディングスは、EV(電気自動車)の導入や、CO₂排出量の可視化など、環境配慮型の物流サービスを提供することで、環境意識の高い顧客層をターゲットとしています。また、企業向けには「グリーン配送」などのサービスを提案し、環境規制の厳格化に対応する企業のサポートを行っています。
Positioning(ポジショニング)
ポジショニング(Positioning)とは、競合と比較して自社のサービスやブランドが市場でどのような立ち位置にあるかを明確にすることです。ヤマトホールディングスは、「高品質な宅配サービス」「多様な物流ソリューション」「環境対応の推進」の3つの要素を軸に、独自のポジショニングを確立しています。
① 高品質な宅配サービス
ヤマトホールディングスの最大の強みは、高品質な宅配サービスの提供です。「クロネコヤマトの宅急便」は、日本全国で高いブランド認知度を持ち、時間指定配送やコンビニ受け取り、再配達削減のための「EAZY」サービスなど、利便性の高い配送オプションを多数提供しています。このようなサービスの充実により、競合他社との差別化を図っています。
また、対面配達だけでなく、非対面での受け取りニーズにも対応することで、消費者の利便性を向上させています。宅配ボックスやコンビニ受け取りの普及は、物流効率を高めるとともに、消費者にとっても柔軟な受け取り手段として好評を得ています。
② 多様な物流ソリューションの提供
ヤマトホールディングスは、法人向けの物流サービスにも力を入れています。EC事業者向けの「フルフィルメントサービス」では、倉庫管理から配送まで一貫した物流サポートを提供し、企業の業務負担を軽減しています。さらに、「クール宅急便」や「医薬品配送サービス」など、業界ごとに特化した物流ソリューションを展開することで、特定市場での競争優位性を確立しています。
競合の佐川急便はBtoB物流に強みを持ち、日本郵便は全国の郵便ネットワークを活用して競争力を維持していますが、ヤマトホールディングスは個人向けと法人向けの両方にバランスよく対応できる点で、独自のポジショニングを築いています。
③ 環境対応の推進
環境意識の高まりにより、企業のカーボンニュートラル対応が重要視されています。ヤマトホールディングスは、電動配送車の導入や、再生可能エネルギーを活用した物流センターの運営など、環境負荷の低減に向けた取り組みを積極的に進めています。
特に、大手企業向けに「グリーン物流」サービスを提供し、CO₂排出量の可視化や削減支援を行うことで、環境対応を重視する企業のニーズに応えています。このような取り組みにより、競合と比較して「環境に配慮した物流企業」というポジションを強化しています。
まとめ
ヤマトホールディングスのSTP分析を通じて、同社が市場をどのように分類し、ターゲットを選定し、競争環境の中で独自のポジショニングを確立しているのかが明らかになりました。個人向け宅配市場と法人向け物流市場の両方にバランスよく対応し、高品質なサービスや環境対応を強みにしている点が特徴的です。
競合との比較では、日本郵便の全国的な郵便ネットワーク、佐川急便のBtoB物流の強みがある中で、ヤマトホールディングスは「個人・法人両方に強い宅配・物流企業」としての立ち位置を確立しています。
次回の記事では、4P分析を用いて、ヤマトホールディングスのマーケティング戦略を詳しく分析していきます。
この企業のターゲット戦略は成功していると思いますか?あなたならどう改善しますか?ぜひコメントで意見をお聞かせください!