短編小説 「マカロニ」
日が傾きはじめた頃、ファミレスの窓際の席に腰を下ろし、メニューを眺めていた。いつものように、目は自然とグラタンのページに引き寄せられる。クリーミーなホワイトソースにたっぷりのチーズ、その下には熱々のマカロニが隠れている。
「今日もグラタンでいいか」
自分にそう言い聞かせて、店員を呼んだ。
「グラタン一つお願いします」
注文を終えると、店内を見渡した。家族連れやカップル、学生たちが楽しそうに談笑している。そんな中、一人でグラタンを待つ自分。それでも不思議と居心地は悪くない。むしろ、この空間が心地よく感じられる。
しばらくして、香ばしい匂いとともにグラタンが運ばれてきた。チーズがこんがりと焼けた表面が食欲をそそる。スプーンを手に取り、そっと表面を崩すと、湯気とともに中からマカロニが顔を出した。
「ああ、やっぱりこれだな」
一口頬張ると、ホワイトソースの濃厚な味わいが口いっぱいに広がる。マカロニのもちもちとした食感が心地よい。食べ進めながら、ふと思った。
「マカロニって、グラタンのためだけに存在してるんじゃないか?」
考えてみれば、マカロニを使った料理と言えばグラタンくらいしか思い浮かばない。スパゲッティやペンネ、リングイネなど、他のパスタは様々な料理に使われているのに。
「マカロニ、お前はグラタン専門か?」
心の中でマカロニに問いかける。もちろん、マカロニサラダなんてものもあるが、あれはサイドメニューの域を出ない。主役として輝けるのは、やはりグラタンだけだ。
「他にお前を活かせる料理はないのか?」
そう思いながら、スプーンでマカロニをすくい上げて眺めてみる。短くて丸まったその形状は、ホワイトソースを絡めるには最適だ。しかし、その形ゆえに他の料理では使いづらいのかもしれない。
「でも、グラタンの中では最高のパフォーマンスを見せてるよな」
自分で自分にツッコミを入れる。マカロニはグラタンの中でこそ輝く存在だ。それでいいじゃないか。
食べ進めるうちに、マカロニへの興味がどんどん湧いてくる。もしかしたら、他にもマカロニを主役にした料理があるのかもしれない。でも、今の自分には思い浮かばない。
「結局、お前はグラタンでしか出会えない存在なんだな」
そう結論づけると、なんだかマカロニが愛おしく思えてきた。一つの料理でしか活躍できないけれど、その一皿で絶大な存在感を放っている。
最後の一口を食べ終えると、満足感とともに心がほっこりと温まった。
「ごちそうさまでした」
席を立ち、レジへ向かう途中、厨房からチーズの香りが漂ってくる。また誰かがグラタンを注文したのだろう。
店を出ると、夕焼けが街をオレンジ色に染めていた。心地よい風が頬を撫でる。
「やっぱりマカロニはグラタンで決まりだな」
つぶやきながら歩く帰り道、次は自分でグラタンを作ってみようかと思った。マカロニを買って、自宅のキッチンで挑戦するのも悪くない。
「でも、失敗したら嫌だな」
苦笑いしながら、でもどこか楽しみな気持ちが湧いてくる。マカロニはグラタンでしか食べない。それでいいし、それがいい。
夕空を見上げながら、明日もまた頑張ろうと思った。小さな幸せを感じつつ、家路を急ぐ。
時間を割いてくれてありがとうございました。
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