短編小説 「青いタコ」
今日も岩陰からひっそりと海の世界を眺めていた。魚たちは楽しそうに群れをなして泳ぎ、タコたちは友達とじゃれ合っている。その光景を見るたびに、胸の奥が締めつけられる。
僕の名前はブル。海の底に住むタコだ。でも、他のタコたちとは少し違う。僕の体はまだらに青く染まっている。そのせいで、周りの生き物たちは僕を恐れて近づいてこない。みんな、僕が毒を持っていると思っているからだ。
「どうして僕だけが一匹なんだろう」
つぶやいてみても、答えてくれる者はいない。自分の体が青いせいで、誰も近寄ってくれない。こんな体で生まれてきた自分を何度も恨んだ。
ある日、僕は決心した。体の色を赤くすれば、みんなと同じになれるかもしれない。そうすれば友達ができるかもしれない。
近くのサンゴ礁へ向かい、赤いサンゴの破片を集めた。それを体にこすりつけて、青い色を隠そうと試みた。しかし、何度やっても青い色は消えない。むしろ、体が傷ついてしまった。
「やっぱりダメか……」
海底に座り込み、深いため息をついた。心の中の暗闇がさらに広がっていく。
その時、遠くから声が聞こえた。
「何をしているの?」
振り向くと、透明な体に美しいヒレを持つヤリイカがこちらを見ていた。彼もまた、他のイカたちとは少し違う。体が透けて見えるほど透明だった。
「君も僕を怖がらないの?」
思わず問いかけると、彼は首をかしげた。
「どうして怖がるの?君はただのタコじゃないか」
「でも、僕の体は青いんだ。みんな毒があると思って近づかないんだよ」
彼は少し考えてから、にっこりと笑った。
「僕もね、この体のせいで周りから変わっていると言われるんだ。でも、それは僕たちの個性じゃないかな」
「個性……?」
その言葉が胸に響いた。
「そうさ。僕は自分の体が好きだよ。君も自分を受け入れてみたらどうかな」
彼の言葉に、心の中で何かが動き始めた。
「でも、どうやって……」
「まずは自分を知ることから始めよう。一緒に海を泳がないかい?」
彼が手を差し出してくれる。僕は少し迷ったが、その手を取った。
海の中を一緒に泳ぐと、見える景色が全く違って見えた。彼は色々な場所を案内してくれた。色鮮やかな魚たち、美しいサンゴ礁、そして光が差し込む海面。
「綺麗だ……」
思わずつぶやくと、彼は笑った。
「君の体の色も、この海の一部だよ。青い色は美しいんだ」
初めて自分の体を美しいと思えた。その瞬間、心の中の暗闇が少しずつ消えていくのを感じた。
「ありがとう……君のおかげで少し自信が持てたよ」
「どういたしまして。僕たちは友達だろう?」
「友達……」
その言葉がこんなにも温かいものだとは思わなかった。
それから僕たちは毎日のように一緒に過ごすようになった。彼は色々なことを教えてくれた。自分を受け入れることの大切さ、生きることの楽しさ。
ある日、僕は海底に映る自分の姿を見て思った。
「もう赤くなる必要はないんだ。僕は僕のままでいい」
青い体は海の色と溶け合い、まるで一つになったように感じた。
「行こう、ブル!」
彼の呼ぶ声に振り向くと、ヤリイカが手を振っていた。僕は笑顔で応え、彼のもとへ泳いでいった。
「これからもずっと友達だよね」
「もちろんさ」
心の中が温かさで満たされていく。僕はもう一匹じゃない。自分を受け入れ、友達と共に生きていく。
海は広く、僕たちの冒険はこれからも続いていく。
時間を割いてくれてありがとうございました。
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