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短編小説 「バッドエンドはダメでしょう」

友達の美咲から「絶対泣けるから観てみて!」と勧められた映画があった。そのタイトルは『ダンサー・イン・ザ・ダーク』名前は聞いたことがあるけれど、観たことはなかった。

土曜日の午後、リビングのソファに腰を下ろし、テレビのリモコンを手に取る。窓から差し込む柔らかな陽光が部屋を包み、心地よい空気が流れている。お気に入りのピンクのハート型のクッションを抱きしめながら、ストリーミングサービスで映画を再生した。

最初のシーンから、主人公セルマの厳しい生活が描かれた。工場での単調な作業、目の病気を抱えながらも懸命に働く姿に胸が締め付けられる。

 「これなら泣けそうだな」

独り言をつぶやきながら、画面に引き込まれていく。セルマの純粋さや息子への深い愛情が伝わってきて、目頭が熱くなる。

しかし、物語が進むにつれて、なんだか不安な気持ちが芽生えてきた。セルマの周りで起こる不幸な出来事が次々と積み重なり、胸がざわつく。

 「ん?ちょっと待って、これ大丈夫?」

ソファーに座り直し、画面に見入る。セルマが追い詰められていく様子に、手に汗がにじむ。きっと大丈夫、大丈夫に決まってる。

 「ありゃ、これは……」

嫌な予感が頭をよぎる。物語がなんだかバッドエンドに向かっているような気がする。そして、エンディング。結末に、思わず立ち上がってしまった。

 「嘘でしょ!?バッドエンドじゃん!」

抱えていたクッションを床に叩きつけ、リモコンを手に取り、電源ボタンを深く深く押し込みテレビを消し、リモコンをソファーに叩きつけた。

 「私はハッピーエンドで泣きたいの!!」と声を荒げて叫び終わると、部屋は静寂に包まれた。時計の秒針がカチカチと音を立て、隣からドンドンと壁を叩く音が聞こえる。

深呼吸をしてソファにドサッと座り込み、転がっているクッションを手に取り、顔を埋め込んで叫んだ。

 「映画はエンタメでしょうが!なにバッドエンドにしてるの!ふざけないで!!!」
 「勧善懲悪でハッピーエンドでいいの!映画にアートを持ち込まないで!!訓垂れるな!!」

クッションがびしょびしょに濡れ、その冷たさが伝わってくる。袖で目元を拭いながら、ふと床を見ると、小さな水たまりができていた。

 「もう、何やってるの私」

ティッシュを手に取り、床に溜まった水を拭き取る。立ち上がってキッチンに向かい、温かい紅茶を淹れることにした。カップにお湯を注ぎ、ティーバッグを揺らしながら、美咲の顔が浮かぶ。

 「まったく、あの子ったら……。次は絶対にハッピーエンドの映画を勧めてもらおう」

心に決めて、カップを手にリビングへ戻る。窓の外はすっかり暗くなり、星がちらほらと輝き始めている。ソファに座り、紅茶の香りを楽しむ。体の中にじんわりと温かさが広がっていく。

 「美味しい」

リモコンを手に取り、明るいタイトルの映画を探し始める。今度はきっと、笑顔で終われる物語を。

 「さて、次は何を観ようかな」




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