小説 「鵜原海岸」 ②
水を飲んだら次第に声が出るようになった。「お母さんはいる?」と聞いた。急に不安が襲ってきて母に会いたくなった。
「あなたが目を覚ました事は電話で伝えて今病院に向かっているよ」看護師さんが教えてくれた。つい一時間前まで居たそうだ。
起きた時に母に居て欲しかったまたしても不安が襲ってくる。
涙がポロポロと落ちていく。普段あまり泣かない、わたしでもこの時ばかりは涙をこぼした。
「大丈夫。安心してすぐにお母さん来るから」看護師さんに慰められた。これには勇気づけられる。少し落ち着きを取り戻したが不安な気持ちは変わらない。
「みてごらん、ほら!」先生が手品を見せてくれた、何もない右手のひらから、トランプを一枚出した。
「見てて」先生が右手のひらを見せながら上下に手を振った瞬間、トランプが消えた。
すごい。でも正直、言えば手品を見るような気分ではなかった。けれど、慰めようとしてくれた気持ちで、少し不安が和らいだ。
三十分くらいすると、母が息を切らして病室に入って来た「ハァ、ハァ、りお」母が涙を浮かべながらわたしを抱きしめた。
「よかった。うぅ本当によがった。生きでぇて」母は涙声で抱きしめながらわたしそう言った。
「お母さんに会えでよがぁった。」わたしも涙声で母に強く抱きしめた。
この時の母の体はものすごく熱くて、このまま燃えるんじゃないかと思ったほど熱かった。
母は普段、涙を見せないというか泣いてるを見たのは、もしかしたら初めてかもしれない。
母は三回の出産を経験してるがその時も涙を流さなかったと母が言っていた。それを初めて聞いた時は少し悲しかった。
けど、この時ばかりはさすがに母でも涙を流した。
もしかしたら、恥ずかしくてわたし達にそう言ったのかもしれない。
五分くらい抱きしめ合った後、先生達が病室に入って来た。どうらやら気を遣って病室から出ていてくれたみたいだ。
それすらも気づかないくらい母とわたしは泣いていたのかもしれない。
先生が改めてわたしの状態を説明した。「りおさんの怪我は足以外は打撲程度の軽傷です。脳にダメージもありませが、足は最悪、切断になるかもしれません。」わたしはふと我に返った、そうだ足を怪我してるんだと。
続く。