短編小説 「いつものモナカアイス」
高校のチャイムが夕日に染まる校庭に響き渡ると、ユメノは鞄をぎゅっと掴んで、クラスの友達の笑顔やおしゃべりを横目に、教室から一目散に出て行った。彼女の後ろからは、友達たちの親しげな声が聞こえてきた。
「またモナカアイスか!」この叫びは、日常となっていた。この日も、彼女の頭の中は、甘くて、とろけるようなバニラモナカアイスのことで、他には何も入っていなかった。
「今日のモナカ早く食べたいなぁ」と考えながら、彼女は学校の門を抜け、通学路に並ぶ赤く錆びた街灯の下を駆け足で進んだ。彼女の足取りは軽く、風になびく制服のスカートを気にも留めず、学校から徒歩5分の距離のコンビニへ、3分で駆けつけた。店のガラス扉を押し開けると、冷たい空気が彼女を迎えた。そして、彼女は他の商品には目もくれず冷凍庫の前に駆けつる。
だがしかし、いつもならば、目の前に鎮座する冷凍庫に彼女の大好きなしっとりとしたバニラモナカアイスが所狭しと並んでいるはずだった。だが、その日、彼女が目にしたのは、通常のラインアップとはまったく異なる景色、キラキラ明るい銀色包装のパリパリのモナカアイスがぎっしりと並んでいた。
「え、どうして…?」
彼女の声は絶望と驚きが混ざったような低いトーンだった。
「どうしてこんなことに…」足元の白いタイルに映る彼女の姿がゆっくりとしゃがみこんでいく。その様子は、まるで彼女の心が折れてしまったかのように。
そんな彼女を見かねて、レジから若い店員が駆け寄ってきた。「大丈夫ですか?」と心配そうな眼差しで声をかけた。
彼女はゆっくりと顔を上げ、その瞳にはほのかに涙の輝きが宿っていた。「しっとりモナカ、どこにいったんですか?」
店員は少し困った表情を浮かべながら答えた。「ああ、それですか。発注が遅れて入荷が明日になってるんです…」
「ええ!?」彼女の叫びは、店内の音楽やレジの音をも飲み込むように、コンビニ全体に響き渡った。
冷凍庫の前の冷たい空気に囲まれながら、彼女はしばらく無言として立ち尽くしていた。そしてやがて、ゆっくりと彼女の右手が1つのアイスのもとへ伸びて行く。
「パリパリのモナカ…、いっぺん食べてみるか」彼女は、パリパリモナカアイスを手に取った。彼女がこれまで食べてきたモナカアイスとは、一味も二味も違うことを胸に、レジへと向かった。
「今日は、新しい挑戦だ!」彼女は自分自身を励ました。
時間を割いてくれて、ありがとうございました。