見出し画像

短編小説 「エルフとドワーフ」


陽が高く昇る頃、僕はドワーフ街への石畳の道を歩いていた。森を抜けると、石造りの建物が立ち並ぶ街並みが見えてくる。道を進むと、エルフの骸骨に斧を刺したオブジェクトが目に入った。悪趣味なオブジェクトを飾っているのは鍛冶屋のマゴロクだ。そこが今回の目的地。

ガラス張りの扉を開けると、熱気と金属の匂いが鼻を突いた。店主のモジャモジャ髭のドワーフがカウンター越しにこちらを見下ろしながら「自らやってくるとは珍しい。エルフ一体、一万ゴールドだ」と酒焼けした声で話しかけてきて、そのまま話し続けた「まぁ、死人にゴールドなど必要ないから娘の学費に使わせてもらうわ」

ここに来たのは間違いだったみたいだ。切れ味がよくて落ちにくい斧を求めて、遠くから来たっていうのにこの歓迎ですか。これだからドワーフは嫌いだ。エルフの僕よりも背がほんの少し高いだけでこの歓迎こよ態度。

 「僕はお客だぞ。斧を買いに来たんだ。ちゃんとゴールドを持ってきた。ドワーフが一生かけても稼げない程のゴールドを」

店主は口元に笑みを浮かべた。「そうか。小さなエルフが扱える斧となると……」そう言ってカウンターの下から小さなナイフを取り出した。

 「これは薔薇のトゲ取り用のナイフだ。君にはぴったりじゃないか」

ドワーフって奴らはいつも僕らエルフを馬鹿にしてばかりだ。なんて奴らなんだ。わからせてやるそう思い、拳を強く握りバンっとカウンターを叩いた。店主の体はビクッと反応した。

 「斧だ斧を買いに来たんだ」と僕は叫んだ。

その時、店の奥から柔らかな声が響いた。「お父さん、失礼よ」

店の奥から、紅色の長い髪を持つ美しいドワーフの女性が現れた。彼女は優雅な動きで近づき、店主の横に立った。

 「私はルージュ。父が失礼なことばかりで申し訳ないわ。こちらへどうぞ、斧をお見せします」

 「はあ〜い僕アルフォ」

彼女に導かれるまま、僕は店の奥へと進んだ。壁には様々な形や大きさの刃物や斧が掛けられている。彼女が一つの斧を手に取り、説明を始めた。しかし、僕の目は彼女の輝く瞳や繊細な指先に釘付けになっていた。声は耳に届いているはずなのに、内容はまったく頭に入ってこない。

 「アルフォさん、いかがでしょうか?」

彼女の問いかけに、はっと我に返った。「え、ああ、素晴らしいですね。それ買います」

会計を済ませた後、思い切って彼女に話しかけた。「もしよろしければ、今夜一緒にディナーはいかがですか?」

ルージュは一瞬目を見開いて、すぐに微笑んで「喜んで」と答えてくれた。

その夜、街の小さなレストランで彼女と食事を楽しんだ。もちろん、ドワーフには大量のチップを渡してフルサービスをさせて。

ろうそくの灯りが彼女の髪をさらに美しく照らし出している。話も弾み、時間が経つのを忘れてしまうほどだった。

食事が終わると、彼女が提案した。「この後、森で『屁こき蛍』の群れを見に行きませんか?とても幻想的なんです」

 「ぜひ行きましょう」

夜の森は静かで、月明かりが木々の間から差し込んでいた。蛍を見るにはすこし明るすぎるかもしれないが構わない。しばらく歩くと、ツンとくる臭いがしてきた。そして小さな光が点々と浮かび上がってきた。

 「見て、あれが屁こき蛍よ」

青白い光がふわふわと漂い、まるで星が降ってくるようだった。僕はその美しさに見とれていたが、ふと気づくと彼女が隣に近づいてきた。

 「アルフォさん、少しこちらを向いて」

言われるままに振り向くと、彼女の顔がすぐ目の前にあった。心臓が高鳴る。次の瞬間、彼女の手が素早く動き、僕のベルトを外した。

 「えっ?」

固まる僕に彼女は微笑んだ。「ごめんなさいね。でもこれも仕事なの」そう言うと、彼女は僕の財布や持ち物を手際よく奪い取っていく。

 「待って、どういうこと?」

慌てる僕をよそに、彼女は軽やかに後ずさりした。「楽しい時間をありがとう。またどこかで」

彼女はそのまま森の闇の中へと消えていった。残されたのは身ぐるみ剥がされた僕と、漂う屁こき蛍の臭いと光だけ。

 「あぁこれだから……」

呆然と立ち尽くしながら、夜風が冷たい。




時間を割いてくれてありがとうございました。
よかったら、コメント&スキ、フォローお願いします。

この記事が参加している募集