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短編小説 「ゴムボール」


ぽんぽんは、小さな青いゴムボール。柔らかなゴムの体に、どこかの家庭の子供たちの手が触れるたびに、壁や床に弾け飛んでいた。彼の一日と言えば、終わりのない跳ね返りと衝突の連続。壁にぶつかり、床に転がり、また壁に飛びつく。そのリズムは単調で、時には退屈なものであった。

ぽんぽんは、いつも何か新しいことを求めていた。「僕はただのゴムボールで、ただ跳ね返るだけの存在。でも、何か違うものにぶつかってみたいな」と、ぽんぽんは心の中でつぶやいた。

ある日の午後、いつも通り子供の手によって放たれた瞬間、ぽんぽんは決心した。「今日は違う!」彼は勢いよく跳ね上がり、壁を目指して飛んでいった。しかし、そのまま壁にぶつかるのではなく、彼は自らの意思で方向を変え、部屋の中央に置かれた大きなテレビに突進した。

「ボンッ!」と音を立てて、ぽんぽんはテレビの画面にぶつかり、そのまま床に転がり落ちた。画面にはぽんぽんの姿が一瞬だけ映り込み、その後は子供たちの笑い声が部屋中に響いた。

「やった!ついに違うものにぶつかったぞ!」ぽんぽんは心の中でガッツポーズを取った。

しかし、その瞬間からぽんぽんの冒険は続いた。テレビにぶつかったことがきっかけで、子供たちはぽんぽんをもっと活発に使うようになった。彼は床や壁だけでなく、家具や玩具、果ては大人の足元にまでぶつかるようになった。それはぽんぽんにとって、まるで新しい世界が広がったかのようだった。

そして、ある日、子供たちがぽんぽんを外に持ち出した。広がる青空の下、ぽんぽんは空高く放たれた。風を切る音が耳に届き、彼の体が空中を軽やかに飛んでいく。「これが本当の飛ぶってことなのか……!」ぽんぽんは初めて感じる自由の感覚に胸を躍らせた。

その時、ぽんぽんは向かい合う二人の子供の間を飛び交うボールとして使われ始めた。投げられては受け取られ、受け取られてはまた投げ返される。そのたびに、ぽんぽんは違う角度から空を見ることができた。

そして、ぽんぽんは気づいた。彼はもうただのゴムボールではない。彼は人と人を繋ぐキャッチボールのボールになったのだ。子供たちが笑顔でぽんぽんを投げ合うたびに、彼はその役割を感じ、満足感でいっぱいになった。

「僕はただ跳ね返るだけの存在じゃない。僕はこうして、人と人を繋ぐことができるんだ!」ぽんぽんは空中で跳ねながら、そう感じた。

ぽんぽんはもう、退屈な毎日を送るただのゴムボールではなかった。彼は今、誰かと誰かを繋げる存在となり、毎日を新しい冒険で満たしていた。そして、その日も子供たちと一緒に飛び跳ねることで、彼はまた新しい一日を楽しんだ。

その夜、ぽんぽんは満足そうに眠りについた。「明日も、また新しい冒険が待っているんだ……」ぽんぽんはそう思いながら、次の日の朝を待ち望んだ。





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