短編小説 「セルフレジ」
午前中の会議を終え、喉の渇きを覚えた。オフィスの近くにあるコンビニに向かった。自動ドアが開くと、冷房の涼しい風が体を包み、店内の明るい照明が目に入った。ジュースの棚に向かい、お気に入りのオレンジジュースを手に取る。
レジへと歩くと、セルフレジが数台並んでいる。明るいディスプレイが「ご利用ください」と誘っているが、誰も使っていない。隣には有人レジが二つあり、客が列を作っていた。僕は迷わず、その列の最後尾に並んだ。
前の客たちが順番に会計を済ませていく間、店員の動きを何気なく眺める。商品のバーコードをスキャンし、袋に丁寧に詰めていく手際の良さ。時折交わされる短い挨拶や笑顔が、なんとなく心地よい。
自分の番が来て、カウンターにジュースを置く。
「袋はご利用ですか?」と笑顔で聞いてくる。
「いえ、そのままで大丈夫です」と僕も笑顔で返す。
支払いを済ませ、店を出ると太陽の光がまぶしく照りつけていた。手に持った冷たいジュースが心地よい。
ふと、セルフレジのことを思い出す。機械の方が早くて便利なのは分かっている。でも、人とのちょっとしたやり取りが好きなんだと感じた。
今日は仕事帰りにスーパーに立ち寄った。夕食の材料を少しだけ買い足すためだ。トマトと玉ねぎ、パンをカゴに入れ、レジに向かう。ここでもセルフレジは空いている。でも、僕は有人レジの列に並んだ。
待っている間、隣のレーンで小さな子供が母親にお菓子をねだっているのが見えた。母親は困った顔をしながらも、優しく諭している。
「ポイントカードはお持ちですか?」レジの女性が丁寧に尋ねる。
「あ、はい」カードを渡しながら、今日の出来事を思い返す。人との触れ合いが、日常に彩りを与えてくれている。
週末にはホームセンターに出かけた。新しい観葉植物が欲しくなったのだ。広い店内を歩き回り、元気な緑色の葉を持つ植物を見つけた。レジに向かうと、ここでもセルフレジが設置されている。「ご自由にお使いください」と書かれた看板が目に入る。
しかし、僕は有人レジに向かった。
「お買い上げありがとうございます」と店員が笑顔で声をかけてくれる。
「袋は結構です」ただそれだけのやり取りで心が軽くなる。
しかし、ある日、時間に追われていた僕は、初めてセルフレジを使ってみることにした。バーコードをスキャンし、画面の指示に従って操作を進める。思ったより簡単だ、と安心したのもつかの間、「エラーが発生しました」というメッセージが表示された。
周囲の視線が気になり、焦って操作するがうまくいかない。顔が熱くなる。店員を呼ぶボタンを押すと、すぐにスタッフが駆け寄ってきた。
「申し訳ありません。こちらで対応いたしますね」
店員は手際よく問題を解決してくれたが、なんとなく落ち着かない気持ちで店を後にした。
外に出ると、夕方の涼しい風が頬を撫でた。空には淡いオレンジ色の雲が浮かんでいる。
「やっぱり、有人レジの方がいいな」
そう心の中でつぶやく。人とのちょっとしたやり取りが、自分にとって大切なんだと改めて感じた。次からは、時間に余裕を持って行動しよう。そして、また有人レジに並ぼう。
そう決めて、家路を急いだ。
時間を割いてくれてありがとうございました。
よかったら、コメント&スキ、フォローお願いします。