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短編小説 「半月ウサギの絵本」
僕は半月ウサギ、本屋の棚に佇む一冊の絵本。もう二カ月もの間、ここで新しい家族を待っているんだ。毎日、僕を優しく手に取ってくれる人はたくさんいるけれど、僕を選んでくれる人はまだ現れない。そのうち現れると信じてるけど、ちょっと最近はもしかしたらを考えるようになってる。
「もしかしたらこのまま出版社に返品になっちゃうかも」と考えちゃう。そうならないように信じたい。
だけど隣には「パンとネズミ」という人気絵本があって、買われていくのはその絵本ばかり。僕はどうにかその隣で人々の目を引こうとしているんだ。棚からすこし飛び出てみたりして。でも、どうやら僕の物語は、人々の心をつかむにはちょっと寂しすぎるみたい。
僕の物語は、半月経つと消えてしまうウサギの物語。半月の間に主人公のウサギは自分がなにをすべきかを必死に考える。恋人を作るのか、いっぱいご飯食べるのか、遊んでいくのか。だけど、消える二日前に悟るんだ。必要とされていないから寿命が短いんだ、と。切なくて、少し哀しいけれど、僕はこの物語が人々の心に何か大切なメッセージを残せると信じているんだ。
「ああ、また誰かが僕を手に取った!」と一瞬で心が躍る。でも、僕を棚に戻して、「パンとネズミ」を抱えてレジに向かう。その姿を見るたび、僕の心はちょっぴり寂しさで満たされる。
僕の時間は確かに限られている。でも、僕の物語を心に刻んでくれる人が現れることを、僕は諦めずに待ち続けるよ。その日が来ることを、僕は心の底から願っているんだ。
そしてある日、小さな子供が足を止め、好奇心いっぱいの瞳で僕を手に取ったんだ。一ページ一ページを丁寧にめくりながら、僕の物語にじっくりと見てくれた。その瞬間、僕の心は久しぶりに温かさに満たされたよ。
だけど、その幸せも束の間、後ろから母親がやってきた。「その絵本じゃなくて、この本にしたら?」と母親は言い、人気の「パンとネズミ」を子供に見せたんだ。でも、子供は首を横に振って、僕を離さなかった。
母親は僕を手に取って少し読んでみて、「これはダメ」と一言。母親は子供の手から僕を取り上げ、「パンとネズミ」を代わりにレジへと持って行ってしまった。
僕の心は再び寂しさで溢れた。でも、あの子供が僕を選んでくれた瞬間だけは、僕の物語が誰かの心に届いたと感じられたんだ。それだけで、僕はもう少し、ここで待つ勇気が湧いてきたよ。
僕の物語は終わらない。いつか、僕を必要としてくれる誰かが、また僕を手に取ってくれるその日まで。
時間を割いてくれてありがとうございました。
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テヘペロ。