短編小説 「雨に打たれるって、気持ちいいしょっ!」
夕方、学校のチャイムが鳴った。もう帰る時間だ。でも、窓の外を見ると、空は暗く、雨が窓に打ちつけていた。「今日に限って、傘を忘れてきたなんて…、濡れたくないのに…」教室の中で、頭を抱えながらどうしたらいいか考えていた。
深呼吸をして、席から立ち上がった。みんなも帰る準備を始めていた。
廊下に出ると、足音や友達の声が響いていた。窓から、雨が窓に打ちつける音が聞こえてくる。耳を塞いで、僕はその音を遮るように、下駄箱の方に足を進めた。下駄箱の前に着くと、折りたたみ傘が入っているか確認するために、ドキドキしながら、ロッカーを開けた。
その時、突然、後ろから女子の声が聞こえた。振り返ると、同じクラスのカサノが赤い傘を持って立っていた。
「アメノ、傘持ってきた?」
「ううん、忘れたんだ…」と僕は答えた。
「珍しいね」
カサノは外を見ながら黙り込んだ。一瞬外を見た後、こっちを見て言った。
「この傘使っていいよ」とカサノは手に持っていた真っ赤な傘を僕に差し出した。
僕は傘を掴んで言った。
「本当にいいの?」
カサノはキラキラとした目で言った。
「知ってるでしょ?私が傘嫌いなの。それに、雨に濡れるって気持ちいいよ。知らないでしょ?」
その後、カサノは手を振りながら、傘をささずに雨の中へ飛び出していった。僕は傘を広げて、雨の中へ出た。
カサノは急ぐこともなく、晴れの日と同じように雨の中を歩いている。
「どうして?」と思わず声が出た。
寒くて冷たくて、服がひっついて気持ち悪くないのかな?だけど、カサノはなにも気にする素振りも見せずに、ただ、雨の中を歩いている。
その姿を見て、もしかしたら、カサノと一緒なら雨の中を楽しめるのかもしれないと思った。そんな気持ちを胸に、カサノが渡してくれた赤色の傘を静かに閉じて、彼女の後を追って雨に足を踏み入れた。
すると、カサノが振り返って立ち止まった。
笑顔だった。
カサノが雨粒の音と共に言った。
「雨に打たれるって気持ちいいしょっ!」
雨粒の音と共に響くカサノの声が、なんだか特別に感じられた。
最初はちょっと冷たくて、服が濡れるのが嫌だったけど、カサノの笑顔を見て、雨の中を歩くのも悪くないなって思った。
「悪くないかも…」と小さく呟いた。
その日、一緒に雨の中、学校の門を出て、家まで歩いた。
そして、その日から僕は雨に濡れるのがちょっとだけ好きになった気がした。
時間を割いてくれて、ありがとうございました。