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短編小説 「給料上がりますか?」


朝の光がオフィスの窓から差し込み、デスクに並ぶ書類を照らしている。パソコンのキーボードを叩く音が周囲から響き、静かな活気を感じる。コーヒーを一口飲みながら、上司の田中課長の背中を見つめた。

最近の物価上昇で生活費が厳しくなり、給料アップの相談をしようと、意を決して席を立ち、課長のデスクへ向かう。

 「課長、少しお時間よろしいでしょうか?」

田中課長は眼鏡の奥からこちらを見上げ、穏やかな笑みを浮かべた。

 「ああ、工藤くん。どうしたんだい?」

 「少しご相談がありまして……」

会議室に移動し、静かな空間に二人だけが残る。窓の外ではおじさん二人がゴンドラに乗って窓を拭きながら僕たちを見ている。

 「で、相談とは?」課長がコーヒーをすすりながら尋ねる。

 「はい。実は、給料のことでお話したいことがありまして」肩の力を抜きながら切り出すと、課長は微笑を浮かべたまま頷いた。

 「給料か。うん、聞こうじゃないか」

 「最近、物価も上がって生活が厳しくなってきまして……。給料を上げていただくことは可能でしょうか?」

課長は一瞬視線を外し、窓清掃のおじさんを眺めた。

 「そうだねぇ。給料を上げるには、やはり会社への貢献度が大事だよ」

 「もちろん、これからも全力で頑張りますが、具体的にどうすれば……」

 「そりゃあ、君がたくさん働いて成果を出してくれれば、自然と給料上がるよ」その言葉に、少し肩透かしを食らった気分になる。一般論ではなく、具体的な道筋を教えてほしかったのだ。

 「それは承知していますが、他に何か方法はありませんか?」

課長はコーヒーを一口飲み、「そうだなぁ」と考える素振りを見せた。

 「例えば、失業率が下がれば給料は自ずと上がるものだよ」

 「失業率ですか?」意外な答えに思わず聞き返す。

 「うん。人手不足になれば給料も上がるんだ」

 「では、失業率を下げるにはどうしたらいいのでしょうか?」真剣な顔で尋ねると、課長は軽く笑った。

 「お金が世の中に溢れれば、経済が活性化して失業率も下がるさ」その答えに、内心呆れてしまう。

 「そうですか……。どうすれば溢れますか?」

課長は肩をすくめて「銀行にもっとお金ちょうだいと言ってきたまえ」と言い、「まあ、焦らずに頑張ってくれ」と話を終わりにされてしまった。

結局、具体的な解決策は得られず、デスクに戻り、ため息をつく。隣の席の佐藤が心配そうに声をかけてくる。

 「どうだった?給料上がりそう?」

 「いや、頑張れば上がるってさ」苦笑いしながら答えると、佐藤も同じように笑った。

 「上司ってそんなもんだよな。でも、お互い頑張ろうぜ」

 「そうだな」

パソコンの画面に目を戻す。メールが山積みだ。外を見ると、雲一つない青空が広がっている。こんな日に外に出てリフレッシュしたいものだ。

 「やるか……」自分に言い聞かせてキーボードを叩き始める。

給料はすぐには上がらない。でも、やるべきことをしっかりやるしかない。そして、頭の中で「頑張ります」と呆れ気味に繰り返す。

現実は厳しいけれど、前を向いて進むしかない。オフィスには相変わらずキーボードの音が響き、時計の針はゆっくりと進んでいる。

今日も一日、精一杯やるだけだ。




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