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短編小説 「コタツでガリガリ君を食べたい」


友達のミヨコの家にはもうすでにコタツが出ていた。その光景を見て懐かしいという感情が飛び出してきた。というか珍しかった。私の実家では廊下以外は基本暖房を入れていたから。コタツに入ったことあるのは高校生頃に家族旅行で訪れた草津の旅館でくらい。コタツに入るのは十年ぶりだ。

「コタツに入ってもいい?」と、コタツに潜りながらミヨコに尋ねた。答えは当然YES。NOと言われてもYESにしてもらう。ダイヤルを回して目盛を三に合わせた。

冷たい足先と手先がじわっと温まってくる。息苦しいけどコタツの中で丸くなるのはなんともいえない心地よさがある。猫がコタツで丸くなりたがるのがよくわかる。髪先がすこしチリチリなったけど気にするもんか。コタツに入れば当然そうなる。

「アイスでも食べる?」と、ミヨコが言った。コタツの中でアイスを食べるなんて最高じゃないか。さすがコタツニストはコタツに入る友達のもてなし方をよくわかっている。

「食べる!」と、言うと、バタンと閉まる音が聞こえた。ミヨコの足音が近づいてくる。すると背中に冷たい空気がぶつかった。ミヨコが背中側のコタツ布団を開けたのだ。外も寒かったがコタツの中で浴びる室内の冷気は外の寒さの比ではなかった。

「そっちじゃない」と、叫んだ。

「ごめ〜ん」と、ミヨコはすぐに反対側に回って布団をまくり上げた。眩しい外の光が目に刺さった。「眩しい早く閉じて」と、言うと、ミヨコは持っていたアイスを私の目の前に置いて布団を下げた。目の前が真っ暗になって、遠赤外線がアイスを照らし出した。

目の前にはガリガリ君の梨味が置かれていた。
梨……だと。おかしい。絶対おかしい。

「なんで梨なの?」と、ミヨコに尋ねた。

「えーわたしガリガリ君は梨派だよ」と、ミヨコは答えた。

いや違う。絶対違う。ガリガリ君だぞ。赤城乳業株式会社の看板商品だぞ。ガリガリ君で梨味だと。食わず嫌いというわけではない。梨味も食べないこともないさ。だが、ガリガリ君だぞ。ガリガリ君といえば、があるだろうが。

そもそも言えば、コタツで食べるアイスは高級品でハーゲンダッツのバニラだ。コスパよくいくならスーパーカップのバニラだ。コタツにはアイス。コタツにはアイスクリーム。コタツにはアイスミルク。コタツにはラクトアイス。

コタツに氷菓はないだろうが!

ガリガリ君といえばコーラ味だろうが!

「ミヨコ!梨はないよ。ガリガリ君で梨はないよ。邪道だよ。コーラだよ。というかなんで梨味あるの?夏限定でしょ」と、ガリガリ君を頬張りながら言った。

「えーだって夏に買いだめたのが残ってるんだもん」と、ミヨコは言った。「それにわたしがいくスーパーとコンビニには夏だろうがコーラ味は置いてないよ」

「そうなんだよ!コーラ味ってなんかないのよ!ガリガリ君といったらコーラでしょ」と、私は床を叩いて言った。

「へー。わかったから早く出てきて寒いよ」と、ミヨコは言った。「人がひとり入ったら足一本も入んないだよこのコタツ」

「今出るよ!ところでこれどこで買ったの?」と、私は尋ねた。

「近くのスーパー」

「外って寒いかな」

「来た時と変わらないと思うよ。行くなら洗って持って行って」

「ちょっと行ってくる」私はコタツから外の世界へ飛び出した。




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