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短編小説 「カーサックス」


夜が更けはじめた頃彼女を軽バンの助手席に乗せて北東へ走らせた。オレンジ色の街灯が道路を照らしている。ピラーの影が彼女の白い衣を覆う。目を覚ますことはない。彼女にキスをしない限り。声すら出さないさ。僕が支配しているのだから。

手放したりなんてしない。いくら金を積まれても彼女を離さない。もし離れることがあるとすれば、ぐちゃぐちゃに壊すさ。僕以外の者が彼女と口づけを交わそうとするのならば。誰かの物にはなってはいけない。僕が絶対なのだ。

車を走らせること五分。近くの海水浴場の駐車場に到着した。駐車場の中央に切れかけの街灯がちらついてる。ここにいるのは僕たちだけだ。海に限りなく近づいて車を停めた。波の音が中からでもよく聞こえる。運転席を後ろにずらして、彼女を抱えた。白い衣が気持ちいい、ずっと触っていたい。でもそうはいかない。ここに来たのは衣を触るためじゃない。

衣を脱がして彼女の素肌に触れた。ツンっと冷たく首が煌びやかに輝いている。外に出たいところだが、あいにく今日は風が強い。僕は出ても構わないが彼女は嫌がるだろう。

さあ、彼女を起こそう。起きてくれるかい。僕はそっと彼女の唇を咥えて息を吹き込むと彼女が声をあげた。ああ!ハスキーボイスがたまらない。

最近、仕事が忙しくてかまってあげられなかった。久しぶりに聴いた彼女の声に、つま先から脳天まで一直線の震えるエクスタシーを感じた。ああ、エクスタシー。ああ、カーサックス。金色の肌がたまらないさ。震えるこの感覚、そうこれはまさにセックス。そう、男と女、僕とサックスの愛のいく末さ。

肺がいくつあっても足らない。酸素がどんなにあっても足らない。彼女は声を出し続ける。僕は息を吹き込む、いくらでも。空気が存在し続ける限り、僕と彼女は絶対なのだ。

さあ、もっと声を出せアルトサックス!
声が枯れるまで。
イキ続けろ。




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アルトサックス演奏者の方々に謝罪します。
ほんとにごめんなさい。気分を害されたのならもう一度謝罪します。ほんとにごめんなさい。

テヘペロ。

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