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短編小説 「布団の中の記者」


「なぜこんなにも事実は隠蔽されるのだろう」

月曜の朝、私、ユメコは憔悴した顔で鏡を見つめていた。5年もの間、政治記者として日々のニュースを追ってきた。だが、その中でどれだけの真実が、私たち記者の手によって、世の中に暴かれているのだろう。

私の仕事は、情報を集め、分析し、真実を伝えること。でも、政治の世界では、真実は簡単には明らかにされない。あの手この手で情報が覆い隠され、私たちの手が届かないところで決定がなされていく。

夜、私は布団に身を投げ込んだ。暗闇の中で、私の妄想が花開く時間だ。ここでは私がルールを作り、私が支配する。

「今晩は、あの無慈悲な政治家の秘密を暴こうかしら」

私は布団の中で微笑んだ。ここでは、彼らは逃げられない。私の質問に答えずにはいられない。私は彼らに真実を語らせ、私の中の正義を実現させる。彼らを糾弾し、彼らから真実を引き剥がす。

全ては、私の布団の中で。

私は布団の中で、鋭い眼差しで政治家Kを見つめた。汚職で知られる彼は、私の目の前に立っていた。虚ろな笑みを浮かべながら、彼は私を馬鹿にしているようだった。

「さあ、ユメコさん。ここはあなたの世界。私をどう「成敗」するおつもりですか?」

彼の挑発に、私の心は一瞬揺らいだ。だが、これは私の世界。私は彼に対して、冷静でいられた。

「あなたがした悪事、すべて明るみに出すの。そして、あなたがどれだけの人々を傷つけ、国を苦しめてきたのか、すべて報じるわ」

私の手には、彼の悪事の証拠がぎっしりと詰まったファイルがあった。私はそれを高々と掲げ、彼の顔を覗き込んだ。

彼の顔色が変わる。傲慢だった彼の表情から、自信が崩れ落ちていく。

「お前には、何もわからない!」彼は怒りに震えていた。

「それが真実だからこそ、こうしているのよ」私の声は、静かだったが力強く彼の耳に響いた。

彼は身を震わせながらも、何も言えずに立ち尽くしていた。私は悠々と彼を見下ろし、真実を伝えることの重要性と責任を改めて感じた。私の中には、正義感が満ちていた。

しかし、私の心のどこかで、これがただの妄想であることを知っていた。これでは、現実の彼は何も変わらない。私は妄想の中で彼を成敗しても、現実の彼には一切影響しない。

私は目を覚ました。朝日が窓辺を明るく照らしている。現実には、私の前には沢山の困難が待っている。だが、私は昨晩の妄想から力を得ていた。それは私にとって、一つの解放でもあった。

私は立ち上がり、新たな一日を迎えた。今日も私は、真実を探し続ける。現実の中で、彼らを成敗するために。




時間を割いてくれて、ありがとうございました。

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